決算書の5つの利益の違い|税理士・銀行・投資家が見る数字とは?
決算書の5つの利益のうち、誰がどの利益を重視するのか?
税理士・税務署・銀行・投資家の視点から徹底解説
〜経営者が「利益の読み方」を理解すれば意思決定が劇的に変わる〜
はじめに:利益は一つではない。だから経営判断を誤る
決算書には「利益」という名前がついた項目がいくつも存在します。
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期純利益
- 当期純利益
この “5つの利益” の意味を正しく理解できている経営者は、実は多くありません。
利益が複数ある理由は、
読み手によって重視する利益が違うからです。
そしてここを理解せずに経営判断をしてしまうと、
- 売上が増えたのにお金が足りない
- 銀行評価が思ったより低い
- 税理士と話が噛み合わない
- 投資判断を誤る
- 黒字倒産のリスクが高まる
という問題を引き起こします。
この記事は、
「それぞれの立場(税理士・税務署・銀行・投資家)は5つの利益のどこを見るのか?」
を体系的に解説し、経営者が“数字で意思決定できる状態”をつくるための実践ガイドです。
第1章 決算書の5つの利益とは?
まず基礎として、5つの利益の意味を整理します。
① 売上総利益(粗利)
売上 − 売上原価
= 粗利(付加価値)
「本業の商品やサービスでどれだけ利益を作ったか」を表す。
② 営業利益
粗利 − 販管費
= 本業で稼いだ利益
会社の体力・競争力を最も反映する利益。
③ 経常利益
営業利益
+ 営業外収益(受取利息など)
− 営業外費用(支払利息など)
= 総合的な経営力の利益
銀行はここを最重要視する。
④ 税引前当期純利益
経常利益
+ 特別利益
− 特別損失
= 一時的要因を含む利益
⑤ 当期純利益
税引前利益 − 法人税
= 最終的に会社に残った利益
内部留保に直結する。
第2章 利益のどこを見るかは「立場」で変わる
ここからが本記事の核心です。
経営に関わる主要プレイヤーは、
それぞれ目的が異なるため、重視する利益が違います。
- 税理士
- 税務署
- 金融機関
- 投資家
- 経営者(あなた)
これを理解すると、
「どの利益を改善すれば目的が達成できるか」が一瞬で分かるようになります。
第3章 税理士が最も重視する利益:⑤当期純利益(税金計算の利益)
税理士の立場は「税務が軸」です。
そのため重視する利益は、⑤当期純利益=課税所得。
◆ 税理士にとって重要な理由
- 税金計算のベースになるから
- 適正な申告が最優先の業務だから
- 税務署に説明できる利益である必要があるから
- 節税を提案する基準になるから
税理士は、
「利益=税金」という構造で数字を見ます。
◆ 事例:当期純利益を調整する必要があるケース
製造業A社
- 設備投資を実施
- 今年の利益が大幅に出ている
→ 固定資産の即時償却を活用して利益調整
→ 税金負担を減らしキャッシュを残す
税理士の役割は
「合法的に税負担を適正化し、会社にキャッシュを残すこと」
そのため当期純利益が最重要になるのです。
第4章 税務署が最も重視する利益:⑤当期純利益(つまり課税所得)
税務署が見ている利益は、税理士と同じく 当期純利益 です。
◆ 税務署の立場
- 「税金が適正に計算されているか?」
- 「経費に不正はないか?」
- 「利益操作(粉飾・脱税)がないか?」
税務署は税収を最大化することがミッションです。
そのため、
売上総利益 → 販管費 → 営業利益 → 税引前利益 → 当期純利益
この利益の流れが「合理的か」を細かくチェックします。
◆ 税務署が最も疑うのは“利益が小さすぎる会社”
- 売上に対して粗利率が低すぎる
- 経費比率が異常に高い
- 当期純利益が毎年ゼロ付近で安定
こうした会社は「粉飾」や「脱税」を疑われます。
◆ 事例:当期純利益を毎年ゼロにしている飲食店B社
- 売上:7,000万円
- 経費:6,999万円
→ 利益がほぼゼロ
税務署視点
「本当にこんなに経費が必要だったのか?」
「私的経費が入っていないか?」
と疑われ、税務調査の対象になりやすい。
第5章 金融機関(銀行)が最も重視する利益:③経常利益(返済能力)
銀行はどの利益を最重要視するのか?
結論は ③経常利益 一択です。
◆ なぜ銀行は経常利益を見る?
理由は明確。
● 経常利益=本業+財務コストを含めた利益
つまり、
「返済できるかどうか」を判断する最適な利益だからです。
◆ 銀行の計算式
銀行は次の式で返済能力を計算します。
経常利益 + 減価償却費 = 返済余力(CPA)
この数字がプラスで安定していれば、
銀行は「安心して貸せる」と判断します。
逆に、
- 経常利益が小さい
- 経常利益が毎年バラつく
- 経常利益が赤字
この場合、銀行の評価は一気に下がります。
◆ 事例:経常利益が毎年ブレている建設業C社
- 営業利益は出ている
- しかし支払利息が多く、経常利益が小さい
- 銀行:「返済負担が大きく、将来危険」と判断
結局、融資額が減らされてしまう。
銀行にとって、
経常利益=返済実力を測る“物差し”
なのです。
第6章 投資家が最も重視する利益:②営業利益(本業の稼ぐ力)
投資家(機関投資家・個人投資家)が重視する利益は 営業利益 です。
◆ なぜ投資家は営業利益を見る?
営業利益は「本業の実力」を最も正確に表す利益だからです。
- 補助金
- 助成金
- 一時的な特別利益
- 不動産売却
- 資産売却
こうした“偶然の利益”を排除して、
本業の実力そのものを見たいのが投資家の視点。
営業利益が伸びている会社は、
株価が上がり、企業価値も高まります。
◆ 事例:営業利益が急改善した小売業D社
- 値下げ戦略→粗利率低下で赤字続き
- 原価構造を見直し
- 粗利率改善
- 営業利益がV字回復
投資家の反応:
「本業の競争力が高まった」
→ 株価上昇
→ 新規投資家の流入が増える
投資家は「本業で稼げない会社」には興味を持ちません。
第7章 経営者であるあなたが最も重視すべき利益はどこか?
経営者が最も重視すべき利益は、ズバリ ② 営業利益 です。
◆ 経営者が営業利益を見るべき理由
- 本業の強さ=会社の継続性
- 経常利益は借入依存で増減する
- 当期純利益は税金や一時損益の影響が大きすぎる
- 粗利率や販管費の改善がそのまま反映される
- 経営改善のPDCAが回しやすい
- 最も“社長の意思”が反映される利益である
つまり営業利益は、
“経営者自身が動かせる利益” なのです。
◆ 事例:粗利率改善だけで利益2,000万円アップした製造業E社
- 価格改定(値上げ)
- 不採算品目の整理
- 外注費見直し
→ 営業利益が一気に増加
経常利益や当期純利益より、
営業利益こそ経営者の意思が最も反映される数字 です。
第8章 立場別「どの利益を重視するか」をまとめるとこうなる
| 立場 | 重視する利益 | 理由 |
|---|---|---|
| 税理士 | ⑤ 当期純利益 | 税金計算・利益調整 |
| 税務署 | ⑤ 当期純利益 | 適正申告の判断 |
| 銀行 | ③ 経常利益 | 返済能力・財務健全性 |
| 投資家 | ② 営業利益 | 本業の競争力 |
| 経営者 | ② 営業利益 | 経営改善の中心指標 |
まとめ:利益の見方を変えるだけで経営判断が変わる
経営は数字から逃げると失敗します。
しかし、数字を“味方にできる経営者”は伸びます。
特に、
立場によって利益の重要性が違うという理解
は経営の武器です。
- 銀行に評価されたい → 経常利益
- 税金を適正化したい → 当期純利益
- 投資家に評価されたい → 営業利益
- 経営を強くしたい → 営業利益
経営者が利益の構造を理解すれば、
資金繰りも、銀行対応も、成長戦略も、すべて意図的に動かせます。
数字が分かる経営者こそ、会社を守り、成長させることができます。
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