財務

製造業・建設業の損益分岐点は“変動損益計算書”でつかめ!

製造業・建設業こそ“変動損益計算書”で損益分岐点を正しくつかめ!

〜固定費を原価に埋もれさせない「利益構造の見える化」〜


はじめに:なぜ「利益が出ているのにお金が残らない」のか?

製造業や建設業の経営者からよく聞く声があります。

「決算では黒字なのに、現金が増えない」
「原価を見ても、どこで儲かっているのかわからない」
「忙しいのに利益が薄い…」

この原因のひとつが、損益分岐点売上を正しくつかめていないことです。
特に製造業や建設業では、原価の中に「固定費」が混在しており、
通常の損益計算書では“利益構造”が見えづらくなっています。

つまり、正確な損益分岐点を出すには、まず「変動損益計算書」に作り替える必要があるのです。

この記事では、

  • 通常の損益計算書ではわからない“経営の落とし穴”
  • 変動損益計算書の作り方
  • 損益分岐点売上の正しい求め方
  • 日次・月次管理への応用法
    を、製造業・建設業の経営者にも分かりやすく解説します。

第1章 通常の損益計算書では“経営の判断”ができない理由

原価に「固定費」が混ざっている

製造業や建設業では、原価に以下のような費用が含まれます。

  • 現場社員の給与(常勤スタッフ)
  • 工場の減価償却費
  • 製造間接費(光熱費・保険・福利厚生費など)
  • 工事管理者の人件費

これらは「仕事があってもなくても発生する費用=固定費」ですが、
一般的な損益計算書では「売上原価」にまとめられてしまいます。

つまり、固定費と変動費が混ざった状態で表示されるため、
経営判断に必要な「利益構造」がぼやけてしまうのです。


通常の損益計算書は“会計用”、経営判断には不向き

通常の損益計算書は、税務署や金融機関に提出するためのもの。
過去の結果を正確に記録することが目的です。

一方で、経営判断に必要なのは「これからの意思決定」に使える資料。
たとえば、

  • 「あとどれだけ売れば黒字か?」
  • 「受注単価をいくら上げれば損益分岐点を超えるか?」
  • 「固定費が増えたら、売上はいくら必要か?」

こうした未来の判断には、「変動損益計算書」が必要です。


第2章 変動損益計算書とは?利益構造を読み解くツール

通常の損益計算書と何が違うのか?

区分通常の損益計算書変動損益計算書
原価固定+変動が混在変動費のみ計上
固定費原価の中に埋もれている独立して表示
利益の見方売上−原価=粗利売上−変動費=限界利益
経営判断難しい明確にできる

変動損益計算書では、費用を「変動費」と「固定費」に分解します。
そして、売上から変動費を引いた“限界利益”で固定費を回収し、
それを超えた分が純利益になる、という構造を明確にします。


変動損益計算書の基本構成

売上高
-変動費(材料費、外注費、出来高給など)
=限界利益
-固定費(人件費、家賃、減価償却費など)
=営業利益

この形式にすることで、
「固定費を回収するために必要な売上=損益分岐点売上」が見えてきます。


第3章 製造業・建設業のための変動損益計算書の作り方

ステップ① 費用を「変動費」と「固定費」に分ける

まずは、勘定科目ごとに仕分けます。

区分変動費に入れる固定費に入れる
材料費・仕入高
外注費・協力会社費
現場作業員の出来高給
工場・現場の常勤社員給料
役員報酬
減価償却費
水道光熱費-(一部変動要素あり)
リース・保険料

ポイント:

  • 売上に比例して増えるものは「変動費」
  • 売上に関係なく毎月発生するものは「固定費」

現場ごとの経費精査を通じて、この仕分けを行うことが第一歩です。


ステップ② 限界利益を算出する

限界利益=売上 − 変動費

たとえば:

  • 売上:5,000万円
  • 変動費:3,000万円
    → 限界利益:2,000万円

限界利益率=2,000万円 ÷ 5,000万円=40%

つまり、売上の40%が固定費回収や利益に貢献しています。


ステップ③ 固定費を算出する

固定費には、工場や現場の維持費、社員給与などが含まれます。
仮に固定費が1,600万円なら、

損益分岐点売上=1,600万円 ÷ 0.4=4,000万円

となります。
つまり、売上が月4,000万円を超えた時点で黒字転換です。


ステップ④ 部門別・現場別に見る

製造業・建設業の場合、事業部・工場・現場ごとに採算が異なります。
そのため、全社一括ではなく部門別損益分岐点を出すのが理想です。

例:

部門売上変動費固定費限界利益率損益分岐点売上
製造部3,000万円1,800万円900万円40%2,250万円
建設部2,000万円1,100万円700万円45%1,555万円

これにより、「どの部門が会社の利益を支えているか」が見えます。


第4章 損益分岐点売上の正しい読み方と活かし方

① 安全余裕率をチェックする

安全余裕率=(実際売上 − 損益分岐点売上)÷ 実際売上

たとえば、売上5,000万円、損益分岐点4,000万円なら、
安全余裕率=(5,000−4,000)÷5,000=20%

→ 売上が20%減ると赤字転落。
この数字が低いほど、経営は“綱渡り”です。


② 「損益分岐点売上÷日数」で“日次目標”を出す

たとえば損益分岐点が月4,000万円、稼働日数20日なら、
1日あたり200万円の売上が必要です。

この「日次ライン」を現場に共有すれば、
“今日どれくらい売れば黒字か”が明確になります。

製造業では「生産額ベース」、
建設業では「進捗・出来高ベース」で日次把握するのがポイントです。


③ 利益改善のシミュレーションができる

  • 粗利率を3%上げたら?
  • 固定費を50万円削減したら?
  • 新規案件を追加したら?

こうした試算が変動損益計算書を使えば簡単にできます。
「感覚経営」ではなく「数字で未来を見る経営」が可能になります。


第5章 事例:変動損益計算書で会社が変わった!

事例①:金属加工業(年商3億円)

従来は「原価管理表」しかなく、
どの製品が儲かっているのか分からない状態。

税理士と協力して原価の内訳を洗い出し、
固定費と変動費に分解した「変動損益計算書」を作成。

結果、特定の製品が限界利益率20%しかないことが判明。
営業戦略を見直し、粗利率35%ラインを基準に受注選別を開始。

→ 1年で営業利益が2倍に。


事例②:建設業(年商5億円)

決算書では利益が出ているのに、常に資金繰りが苦しい。
調べてみると、現場管理者の人件費やリース料が「原価」に埋もれており、
実質的な固定費が見えていなかった。

変動損益計算書を導入したことで、

  • どの現場が赤字なのか
  • 固定費をどこで吸収しているのか
    が明確化。

→ 2年目には黒字幅が安定し、資金余力も改善。


第6章 数字を“使える経営者”になるための学び方

学ぶべき3つのステップ

  1. 固定費・変動費を仕分けできるようになる
     → 自社の費用構造を理解する。
  2. 限界利益率を把握する
     → 「1円の売上でいくら利益が残るか」を意識。
  3. 損益分岐点と日次目標をリンクさせる
     → 現場が数字を使って行動できる体制をつくる。

税理士が教えてくれない理由

多くの税理士は「会計(過去)」に強くても、「管理会計(未来)」を体系的に学んでいません。
損益分岐点分析や限界利益率は、経営会計・財務分析の領域であり、
税務処理の範囲を超えることも多いのです。

したがって、経営者自身が学び、必要であれば
財務コンサルタント・キャッシュフローコーチなどと協働することが重要です。


第7章 まとめ:変動損益計算書は“経営の真の見取り図”

観点通常の損益計算書変動損益計算書
目的税務・会計経営判断・未来予測
利益の構造不明確明確に見える
固定費の見える化難しい可能
損益分岐点の算出不正確正確に算出可能

結論:
製造業・建設業の経営者が損益分岐点を正しく掴むには、
まず「原価の中に潜む固定費」をあぶり出し、
“変動損益計算書”に組み替えることが必要です。

その上で、日次・月次で売上を追い、
限界利益率を意識することで、経営の再現性が生まれます。

数字を“理解する”経営から、“数字で経営する”経営へ。
これこそが、強い製造業・建設業が実践している財務体質強化の王道です。

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