社宅の借り上げと住宅手当、どちらが有利?
経営者が知っておくべき福利厚生と税務上のポイント
はじめに
従業員の定着率を高め、安心して働ける環境をつくるために、福利厚生の整備は欠かせません。その中でも「住まい」に関わる制度は、従業員にとって大きな魅力のひとつです。
企業が取り入れやすい代表的な制度として 「社宅の借り上げ」 と 「住宅手当」 があります。
一見すると同じように「従業員の住居を支援する仕組み」に見えますが、実際には 税務上の取り扱いや従業員へのメリットが大きく異なる のです。
本記事では、それぞれの仕組みやメリット・デメリットを整理し、さらに「福利厚生としてどちらが向いているのか」「税務上どちらが有利なのか」を経営者目線で解説します。
社宅の借り上げとは?
仕組み
会社が不動産会社や大家と直接契約を結び、従業員に社宅として貸し出す制度です。家賃の一部または全額を会社が負担し、従業員は一定の自己負担額を支払って住むことができます。
メリット
- 従業員側のメリット
- 住宅手当に比べて 所得税・住民税がかからない(一定条件下)。
- 実質的な住居コストを大幅に削減できる。
- 家賃が給与に含まれないため、社会保険料も抑えられる。
- 会社側のメリット
- 福利厚生としてアピールでき、人材採用・定着に有利。
- 税務上は 福利厚生費として損金算入可能。
- 社員の生活基盤を支えることで、モチベーション向上につながる。
デメリット
- 会社が契約主体となるため、解約やトラブル時の負担が大きい。
- 社宅として認められるには、国税庁が定める「家賃相当額の計算基準」を満たす必要がある。
- 手続きや管理業務が煩雑になりやすい。
住宅手当とは?
仕組み
従業員に対し、給与の一部として「住宅手当」を支給する制度です。従業員はそのお金を使って自分で賃貸契約や住宅ローン返済を行います。
メリット
- 従業員側のメリット
- 使い道が自由。賃貸・持ち家問わず活用できる。
- 手続きがシンプルで、従業員にとってわかりやすい。
- 会社側のメリット
- 導入・運用が簡単で、事務負担が少ない。
- 社宅管理に比べリスクが低い。
デメリット
- 従業員にとっては給与扱いとなり、所得税・住民税・社会保険料の対象。
- せっかく支給しても、手取りは支給額より減ってしまう。
- 福利厚生としての魅力は社宅に比べ弱い。
税務上の取り扱いの違い
社宅の場合
- 会社が負担する家賃は「福利厚生費」として損金算入可能。
- 従業員の自己負担額が「家賃の半額程度」や「国税庁の計算基準」に基づいていれば、従業員の給与課税対象とならない。
👉 結果的に、税務上も従業員負担が軽くなる。
住宅手当の場合
- 手当は「給与」として支給されるため、所得税・住民税・社会保険料が課税対象。
- 会社にとっては「給与」として損金処理できるが、従業員側には節税効果がない。
福利厚生として向いているのはどっち?
- 従業員にとってありがたいのは「社宅」。
→ 実質的な手取りベースで考えると社宅の方が有利。 - 会社にとって楽なのは「住宅手当」。
→ 管理負担が少なく、制度運営もシンプル。
結論としては、
- 採用力や定着率を重視するなら「社宅」
- 管理コストや柔軟性を重視するなら「住宅手当」
といえるでしょう。
経営者が選択すべき判断基準
- 従業員の属性や人数
→ 若手が多く、生活支援が必要なら「社宅」。 - 事務管理体制
→ 総務・経理に負担をかけたくないなら「住宅手当」。 - 会社のアピール戦略
→ 採用やブランディングを強化したいなら「社宅」。 - 税務メリットをどこまで重視するか
→ 節税を強く意識するなら「社宅」。
まとめ
- 社宅は「節税効果が高く、従業員に喜ばれる制度」だが、管理が煩雑。
- 住宅手当は「シンプルで導入しやすい制度」だが、税務的には不利。
- 経営者は、自社の規模や採用戦略、管理体制を踏まえて制度を選択すべき。
私はこれまで多くの企業に対して、社宅制度導入・住宅手当制度の設計をサポートしてきました。どちらを選ぶかは会社の経営戦略次第ですが、数字とキャッシュフローを見える化することで最適な選択肢が見えてきます。
もし「自社にとってどちらが有利か分からない」と感じたら、専門家の視点でのアドバイスが有効です。制度選びを誤らなければ、福利厚生強化と節税効果を同時に得られるでしょう。
ホームに戻る芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。