財務

建設業の経営審査はキャッシュフロー経営で点数が上がる!

経営審査の点数を上げる最強の方法は「キャッシュフロー経営」にあり

〜資金繰りを制する建設会社が信用と成長を手に入れる〜


はじめに:経営審査の点数は「お金の流れ」が決める

「経営審査の点数を上げたい」
——これは、多くの建設業経営者の共通の願いです。

公共工事の入札に参加するためには、国や自治体が行う「経営事項審査(経審)」を受ける必要があります。
そして、この経審の評価点(P点)が高ければ高いほど、入札で有利になります。

多くの経営者は、点数アップのために

  • 売上や利益を上げる
  • 自己資本を厚くする
  • 借入を減らす
    といった“結果”の数字ばかりを追いがちです。

しかし、経審の点数は「決算書の数字」で評価されます。
つまり、日々の資金繰り=キャッシュフロー経営が、そのまま点数に反映されるのです。

この記事では、

  • 経営審査の評価構造をわかりやすく整理し、
  • 資金繰りとキャッシュフロー経営の関係を解き明かし、
  • 実際に点数を上げるための具体策
    を、経営者目線で詳しく解説します。

第1章 経営審査(経審)とは何か?点数の基本構造を理解する

経営事項審査とは

経営事項審査(経審)は、国土交通省が定める建設業者の「経営力・経営状況・技術力・社会性」を総合的に点数化する制度です。
公共工事の入札に参加するためには、この点数(総合評定値=P点)が不可欠です。


経審の点数構成

区分内容配点の目安
X 評点経営規模(売上・資本金・技術者数)約2,000点
Y 評点経営状況(財務内容)約1,200点
Z 評点技術職員・工事実績約2,000点
W 評点社会性等(法令遵守・雇用保険など)約1,000点
総合評定値(P点)上記の合計値を算出最大2,000点超

この中で、Y評点(経営状況分析)が“財務体質”を数値化した部分です。
ここが安定して高得点を取れる会社は、銀行・発注者からも「信頼される建設会社」と見られます。


第2章 Y評点(経営状況分析)は「キャッシュフロー体質」を映す鏡

経営状況分析(Y評点)は、財務データから以下の9項目をスコア化して算出されます。

指標内容ポイント
1. 純支払利息比率借入金に対する利息負担低いほど良い
2. 負債回転期間負債を返済する力短いほど良い
3. 売上高経常利益率経常利益÷売上高高いほど良い
4. 自己資本比率自己資本÷総資産高いほど良い
5. 営業キャッシュフロー比率営業CF÷負債プラスが望ましい
6. 流動比率流動資産÷流動負債120%以上が理想
7. 当座比率現金・売掛金÷流動負債100%以上が理想
8. 固定長期適合率固定資産と長期資本のバランス100%未満が理想
9. 総資本回転率売上高÷総資産高いほど効率的

ここで注目すべきは、赤字ではなく「キャッシュフロー」に関する指標が含まれている点です。

つまり、資金繰りが上手い会社ほどY評点が上がりやすい構造になっているのです。


第3章 資金繰りを整えることが点数アップにつながる理由

1)営業キャッシュフローがプラスならY評点が上がる

営業キャッシュフローは、「本業で稼いだお金の増減」を示す指標。
経審では、営業キャッシュフロー ÷ 負債 の比率が評価対象となります。

  • 営業CFがプラス → 優良企業と判断
  • 営業CFがマイナス → 資金繰りに問題ありと判断

つまり、「本業でお金を増やせている会社」は高評価になるのです。


2)借入依存が低いと「純支払利息比率」が改善

資金繰りが安定している会社は、無理な借入をしなくても資金が回ります。
すると、支払利息が減り、「純支払利息比率」が下がります。

→ 経審では「低いほど高得点」になる項目です。

逆に、短期借入で資金を回している会社は、この比率が悪化し、Y評点が下がります。


3)資金繰りを意識すれば自己資本比率も自然に上がる

キャッシュフロー経営を続けていくと、毎期の黒字分が内部留保(自己資本)として積み上がります。
借入を返済していけば、負債が減り、自己資本比率は上昇。

自己資本比率の上昇=Y評点アップです。

資金繰りを管理してお金を残せる会社は、自然と財務内容が良化するのです。


第4章 建設業におけるキャッシュフロー経営とは?

キャッシュフロー経営とは、「利益」ではなく「お金の流れ」で経営を判断すること。

建設業では、特に次の特徴があるため、キャッシュフローの視点が欠かせません。

特徴影響
完成工事制で入金が後になる利益が出ても資金が足りない
外注費・材料費の先払いキャッシュアウトが早い
複数現場が同時進行現場別資金管理が難しい
手形・請負入金の遅延資金繰り悪化リスクが高い

このような業態構造を踏まえ、
「現金残高」「入出金サイクル」「借入返済」「税金支払」をトータルで管理するのが、キャッシュフロー経営の本質です。


第5章 キャッシュフロー経営でY評点を上げる5つの実践策

① 現場別資金繰り表をつくる

建設業の資金繰りは「工事単位」で考えることが重要です。
各現場ごとに、次のような資金繰り表を作りましょう。

入金予定支払予定差引残高コメント
5月1,200万円1,100万円+100万円問題なし
6月800万円1,000万円▲200万円借入で補填
7月1,500万円900万円+600万円回収期

現場別で資金の動きを把握すれば、「どの工事が資金を食っているか」が一目で分かります。
→ これが資金繰り悪化の“予兆管理”です。


② 短期借入から中長期借入への切替

短期借入を繰り返すと、返済サイクルが早く、常に資金繰りが苦しくなります。
資金繰り表をもとに、返済期間を1年→3年→5年と延ばすだけで、
手元資金に余裕が生まれ、支払利息も安定します。

結果的に:

  • 営業CFが改善
  • 純支払利息比率が低下
    経営状況評点(Y点)がアップ

③ 減価償却費を経営に活かす

経審上の営業キャッシュフローは、
「経常利益 + 減価償却費 ± その他調整項目」で計算されます。

つまり、減価償却費は「現金が減らない経費」。
利益を圧縮しながらキャッシュを残す手段になります。

設備投資のバランスをとり、償却をコントロールすることで、
点数アップと資金余力を両立できます。


④ 支払サイトを短縮・回収サイトを改善

経審では「流動比率」「当座比率」も評価されます。
これらを上げるためには、

  • 売掛金を早く回収する
  • 買掛金・外注費の支払サイトを交渉して遅らせる
  • 不要な在庫や仮払いを減らす

といった運転資金の最適化が有効です。
資金繰りが良くなるほど、流動比率は上昇し、Y点が上がります。


⑤ 営業利益率を安定させる

営業利益が安定すると、経常利益・営業CFも安定します。
経審では「売上高経常利益率」も高評価項目です。

したがって、

  • 原価管理の徹底(仕入・外注コスト)
  • 不採算工事の見直し
  • 高利益率の仕事へのシフト
    を行うことが、キャッシュフロー経営と点数アップを両立するポイントです。

第6章 銀行と経審は“同じ目線”で会社を見ている

実は、銀行の融資審査と経営事項審査の「評価基準」は非常に似ています。

銀行の視点経審の指標意味
営業キャッシュフロー営業CF比率本業で稼ぐ力
自己資本比率自己資本比率安全性
債務償還年数負債回転期間返済能力
経常利益売上高経常利益率収益性
流動比率流動比率支払能力

つまり、銀行に信頼される会社は、経審でも高得点を取れる構造になっています。
資金繰り管理=信用力アップ=Y評点アップという「一石三鳥」の効果です。


第7章 キャッシュフロー経営を定着させる3つの仕組み

① 月次の資金会議を行う

月1回、経理担当と社長で「資金の流れ」を確認します。

  • 現金残高
  • 入出金予定
  • 借入返済と支払タイミング
  • 利益とキャッシュのズレ

これを会話にすることで、数字の“感覚”が身につきます。
税理士に任せるのではなく、社長が自分で数字を読むことが大切です。


② 経営計画に「キャッシュ目標」を入れる

経営計画を立てる際は、「利益目標」だけでなく
「営業キャッシュフロー」「現金残高」も目標に入れましょう。

利益は会計上の数字、
キャッシュは経営の現実。

この考えを持てば、経審での財務内容改善も自然と進みます。


③ 財務コンサルタント・税理士との連携

キャッシュフロー経営を実践するには、
「会計」と「財務(お金の流れ)」をつなぐ専門家の存在が不可欠です。

特に建設業では、

  • 経審を意識した決算書づくり
  • 金融機関との交渉資料の作成
  • 工事別原価・キャッシュフロー管理
    など、税理士と財務コンサルの連携が鍵になります。

第8章 実践企業の成功事例

事例①:年商5億円の中堅建設会社A社

毎年経審Y評点が55〜58点止まりだったが、
キャッシュフロー経営を導入し、現金管理と借入返済計画を見直し。

  • 営業CFが毎期プラスに
  • 自己資本比率20%→32%へ改善
  • 翌年Y評点が64点に上昇

入札資格もランクアップし、官公庁工事の受注額が増加。


事例②:年商2億円の地場建設会社B社

経理を税理士任せにしており、資金繰りが見えない状態。
現場別資金繰り表を導入し、入金と支払の見通しを共有。

  • 一時的な短期借入を半減
  • 支払利息比率が改善
  • 経常利益率3%→5.5%
    結果、Y評点が8点上昇。

「キャッシュを読む力」が、会社の安定感を生みました。


まとめ:経営審査は「資金繰り経営力」を見ている

視点意味改善ポイント
営業CF本業でお金を稼ぐ力資金繰り表の作成
自己資本比率財務の安定性黒字と内部留保
利息比率借入依存度借入の最適化
経常利益率収益性原価・利益管理
流動比率支払余力運転資金管理

経営審査の点数を上げるために、特別なテクニックは必要ありません。
資金繰りを正しく読み、キャッシュフローを改善することこそ最強の対策です。

キャッシュフロー経営を実践する建設会社は、
点数だけでなく、取引先・金融機関・社員の信頼も同時に高めることができます。

「数字を追う経営」から「お金を操る経営」へ。
それが、経審評価を劇的に変える第一歩です。

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