運転資金は短期?長期?正しい借り方と判断基準を解説
運転資金は短期で借りるべきか?長期で借りるべきか?
〜経営者が迷わず判断できる「資金調達の実践基準」〜
はじめに:運転資金の「借り方」で会社の命運が決まる
運転資金は、会社を動かすための“血液”です。
そして、この運転資金を短期で借りるのか、長期で借りるのかで、
資金繰りは大きく変わります。
経営者がよく口にする悩みがあります。
- 「短期で借りると毎年返済が大変。でも金利は安い…」
- 「長期で借りれば余裕は出るけど、借金が増えたように見える…」
- 「銀行に言われるまま短期で借りているけど本当に正しい?」
- 「運転資金って本当は短期で借りるもの?長期で借りてもいい?」
結論として、
あなたの会社の運転資金の“性質”によって、借り方はまったく変わります。
この記事では、
- 短期・長期をどう使い分けるのか?
- 判断基準は何か?
- 銀行はどう見ているのか?
- 事例を交えたベストな資金調達方法
を“経営者の行動につながるレベル”で徹底解説していきます。
第1章 運転資金には「短期」と「長期」の2種類がある
運転資金は、本来2つに分かれます。
① 一時的運転資金(短期で借りるべきお金)
別名:季節資金・つなぎ資金
- 入金と支払のズレによって一時的に必要になる資金
- 年間を通じて動きが変動する業種に多い
- 回収が見込める(=短期で返済できる)
例:
- 建設業で「入金が申請月に固まる」
- 小売業で「仕入れが先・売上が後」
- 製造業で「決算前の棚卸調整で支払いが増える」
→ 短期運転資金の特徴は「回収と支払のタイムラグ」。
② 恒常的運転資金(長期で借りるべきお金)
別名:常時運転資金・固定運転資金
- 会社を存続させるために“いつも必要な資金”
- 売上がある限り必ず必要になる
- 長期で返済するのが正しい
例:
- 売掛金の回収が月末締め翌月末払い
- 在庫を常に持つ業態
- 外注費の支払サイトが短い業種
- 製造業で常に材料在庫が必要
→ 恒常的運転資金の特徴は「借入し続けないと会社が回らない」。
第2章 短期で借りるべき運転資金とは?
短期資金に向いているケース
- 明確に入金が約束されている
- 入金までのタイムラグが数か月以内
- 売上の繁忙期・閑散期の波が大きい
- 建設業の工事入金のタイムラグ
- 季節商品(イベント・繁忙期)に依存する業種
短期で借りて短期で返す——これが本来の姿です。
ケース① 建設業の「出来高払い」
建設業B社
- 支払:外注費・材料費は先払い
- 入金:出来高部分のみ翌月or翌々月
→ 常に2か月分の資金が必要
しかし、工事ごとに入金タイミングが違うため、
短期で一時的に資金不足になるケースが多く、
短期運転資金融資が適していると言えます。
ケース② 食品小売の「年末繁忙期」
スーパーC社
- 12月は売上が伸びる
- しかし仕入は早めに必要(10月〜11月)
→ 2か月間の仕入資金を短期で調達
年末商戦が終わればすぐに返済できるため、短期資金が最適。
短期資金のメリット
- 金利が安い
- 必要なときに必要なだけ借りられる
- 返済が早いので一時的な資金ショートに対応できる
短期資金のデメリット
- 返済サイクルが早いため、資金繰りを圧迫
- 毎年同じ金額を借り続ける場合は“間違った借り方”
- 銀行から「長期資金に組み替えるべき」と指摘されることも
第3章 長期で借りるべき運転資金とは?
長期運転資金は、実は**最も経営を安定させる“正しい借り方”**です。
なぜなら、会社が事業を続ける限り、必ず必要だからです。
長期で借りるべきケース
- 売掛金・在庫を常に持つ業態
- 支払サイトより回収サイトが長い業種
- 固定的な人件費(支払が即時)に比べ、入金が遅い業種
- 複数現場を同時進行する建設業
- 製造業の材料在庫・仕掛品在庫が多いケース
データとしても、
“在庫+売掛金 − 買掛金” が多い業態は、
必ず恒常的運転資金が必要になります。
ケース① 製造業の「3か月運転資金」
製造業D社
- 材料仕入:支払即時
- 人件費:月払い
- 出来上がり→納品→検収→入金:90日後
売上は伸びるが、常に3か月分の資金が必要。
これは短期で借りるべき資金ではない。
長期5年〜7年で借りて返済するのが正解。
ケース② 建設業の「常時必要な運転資金」
建設業E社
- 現場が年間10〜15件あり常時稼働
- 外注・材料費の支払は毎月
- 入金は完工ベース
常に平均3〜4か月分の運転資金が必要。
これは恒常的運転資金であり、
短期で借り続けるのは危険な借り方。
長期資金のメリット
- 毎月返済額が少なく、資金繰りが安定
- 経営体質が「安定型」になる
- 銀行から見て“返済計画が明確”
- 短期資金の借り換えを毎年しなくてよい
長期資金のデメリット
- 金利がやや高め(とはいえ1〜2%程度)
- 残高が減らないように見える(心理的負担)
経営を安定させるためには、「見た目」より「資金繰りの安定」を優先するべきです。
第4章 【結論】運転資金の借り方は「性質」で決める
以下の表で判断できます。
| 資金の性質 | 借り方 | 具体例 |
|---|---|---|
| 一時的な資金不足 | 短期資金 | 工事進行のタイムラグ、繁忙期資金 |
| 恒常的に必要な資金 | 長期資金 | 売掛金・在庫・人件費の先出し |
| 回収が確定している | 短期資金 | 受注済み・出来高払い |
| 回収まで長期スパン | 長期資金 | 製造業・多店舗販売 |
“毎年同じ額の短期借入をしている会社”は要注意。
それは本来、長期で借りるべき運転資金です。
第5章 銀行は「短期と長期のバランス」を厳しく見ている
銀行は資金の性質と借入の内容が一致しているかを見ています。
銀行が評価するのは…
- 恒常的運転資金 → 長期で借りている
- 一時的運転資金 → 短期で借りて返済している
この状態なら、“財務管理ができている会社”と判断します。
銀行が嫌うのは…
- 短期で借りて長期で使う会社(NG)
→ 資金繰りが常に苦しい
→ 借り換えが必要、金融リスクが高い - 短期借入を「返済→借入」をぐるぐる回す会社
→ 実態は長期運転資金
→ 銀行から「借り方が間違っている」と指摘される - 借入金の用途が曖昧な会社
→ 審査でマイナス評価
銀行は「資金をどう使って、どう返すか」を明確に説明できる会社に安心して融資します。
第6章 資金繰り表を使えば短期か長期かが一瞬で判断できる
実際に最も正確に判断できるのが「資金繰り表」です。
資金繰り表で見るべきポイント
- 年間を通して残高が減る月が多い → 長期資金が必要
- 支払が先で入金が後 → 長期傾向
- 繁忙期だけ一時的にマイナス → 短期資金が使える
- 売掛金・在庫の増加 → 長期資金が必要
- 短期借入を返すと残高がほぼゼロ → 借入期間が間違い
資金繰り表を作れば、借入期間の誤りは一発で判明します。
第7章 事例で理解する「短期か?長期か?」の正しい判断
事例1:毎年1000万円の短期借入を続けている製造業A社
- 売掛金回収が月末締め翌々月末
- 在庫は常時1000万円必要
- 短期借入1000万円を毎年借り換え
これは、短期借入として適していません。
実態は「常に1000万円必要な恒常資金」。
→ 5年の長期借入に切り替えるべき。
切り替え後:
- 毎月の返済額が少なく資金繰りが安定
- 短期借入依存が減り、銀行評価が改善
- 流動比率が上昇し企業体質が安定
事例2:建設業B社 工事入金が3か月後
- 外注費支払:当月
- 入金:3か月後の出来高
- ピーク時に外注費の先払いで資金不足
→ 短期資金が適切
特に、工事の完成入金が確実な場合、短期融資で十分対応可能。
事例3:小売業C社 繁忙期前の仕入資金
- 12月が繁忙期
- 仕入は10〜11月に集中
- 1月に売上回収
→ 明確に「季節資金」
短期融資(半年以内)が最適。
事例4:在庫5000万円・売掛金3000万円の卸売業D社
- 年間通して在庫・売掛の規模が変わらない
→ 恒常運転資金:8000万円
→ 買掛金:3000万円
→ 必要資金:5000万円
→ 長期借入が正しい
第8章 経営者は「短期で借りるか?長期で借りるか?」をこう判断する
✔ 判断基準1:資金が何日(何か月)で返るか?
- 回収が早い → 短期
- 回収が遅い/常に必要 → 長期
✔ 判断基準2:使った資金がすぐ戻るか?
- 仕入→売上→入金まで1〜2か月 → 短期
- 構造的に常に必要 → 長期
✔ 判断基準3:借りたお金を返す余力が毎月あるか?
- 返済できる → 短期
- 返済すると残高がゼロになる → 長期に切替え
✔ 判断基準4:資金繰り表で年間を通して残高が減るか?
- 一時的にマイナス → 短期で調整
- 数か月間マイナス → 長期の構造問題
まとめ:運転資金は「期間のマッチング」で借りるのが正解
| 判定項目 | 短期に向く | 長期に向く |
|---|---|---|
| 回収サイクル | 早い | 遅い |
| 資金の必要性 | 一時的 | 恒常的 |
| 決算での見え方 | 借入減少 | 安定化 |
| 銀行評価 | 適切ならプラス | 返済計画が明確 |
| 資金繰り | 不安定になりやすい | 安定 |
経営者が迷ったら、次の言葉を思い出してください。
「短期で借りていいのは“短期で返るお金”だけ」「返らないお金は“長期で借りるべき”」
この判断を徹底することで、
資金繰りが改善し、銀行評価が上がり、
会社の経営は安定し、黒字倒産のリスクを大きく下げることができます。
芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。