資金繰り表は税理士任せでいい?社長が握る数字術
資金繰り表は税理士任せでいいのか?
〜「数字を読める社長」だけが会社を守れる理由〜
はじめに:黒字でもお金がない…の正体は「資金繰りの不在」
「決算は黒字なのに、通帳にはお金がない」
「税理士から月次はもらっているけど、来月資金が足りるかどうかは分からない」
こうした状態は、会計が悪いのではなく、お金の流れを未来向きに見ていないことが原因です。
税理士に会計や申告を任せるのは正しいですが、資金繰り表まで丸投げしてしまうと、経営のタイミングを逃します。
資金は「結果を見る」ものではなく、「先に読む」ものだからです。
この記事では、
- 資金繰り表を税理士任せにするとなぜ危ないのか
- 会社(社長)が自分で作るべき表と数字はなにか
- 月次はいつまでに完成させるのがベストなのか
- 最後はキャッシュフロー経営が会社を救うこと
を、経営者にわかる言葉だけで解説します。
第1章 なぜ「税理士任せの資金繰り」は危険なのか
1-1 税理士の仕事は「過去の数字を整えること」
税理士の中心業務は、帳簿を整え、決算・申告を期限までに出すことです。
つまり役割は「過去の事実を正しく記録すること」。
一方で、資金繰り表は「未来を予測して手を打つための表」です。
目的が違うので、ここを全部任せてしまうと、手を打つタイミングが遅くなるのです。
1-2 税理士が作る資金繰りは“結果表”になりやすい
多くの場合、事務所から出てくる資金資料は「今月こう動きました」という結果の整理です。
経営者が本当に知りたいのは、
- 来月末にいくら残るのか
- 支払いと入金がぶつかる月はどこか
- 借入金の返済が重なるのはいつか
といった“これから”の情報。
ここは社長自身が握る必要があります。
1-3 「社長が答えられない会社」は銀行に弱い
銀行担当者にこう聞かれて即答できますか?
- 「今月末の資金残は?」
- 「来月は賞与がありますが、資金は足りますか?」
- 「消費税の納付月を見込めていますか?」
ここに答えられないと、銀行は「この会社は数字を現場で見ていない」と判断します。
資金繰り表を社長が理解していることは、それだけで信用力になります。
第2章 会社が自分で作るべきものはこの3つだけ
「全部やれ」と言われると負担なので、ここだけ押さえればOKという3点に絞ります。
2-1 ① 資金繰り表(最低3か月先)
「いつ入って、いつ出るか」を日付ベースで並べたものです。
Excelで横に日付、縦に入金と出金の項目を置くシンプルなもので構いません。
ここができると「資金ショートが起きる日」が事前にわかります。
2-2 ② 月次の速報(売上・粗利・経常的な固定費)
税理士から試算表が来るのを待たずに、社内で翌月10日までに数字を出す仕組みです。
完璧でなくて構いません。
「今月売上はだいたいいくらで、固定費はいくらで、利益が出てそうか」これが社長の机に早く乗ることが大事です。
2-3 ③ 借入・返済の年間スケジュール
返済は毎月必ず出ていく“固定の出血”です。
ここを年単位で見えるようにしておくと、賞与・設備投資・増員などのタイミングがとても決めやすくなります。
金融機関に見せても好印象です。
第3章 月次はいつまでに完成させるのがベストか?
3-1 理想は「翌月10日」、遅くても「翌月15日」
中小企業だと、月次が翌月末〜翌々月にしか出てこないことが多いです。
しかしそれだと、資金が苦しくなるサインを見たときにはもう遅い。
理想は翌月10日までに社長が数字を見られる状態です。
10日で見えれば、20日までに手が打てます。
月末に赤字が出るなら、その前に銀行相談もできます。
3-2 スピードを上げるコツ
- 毎日の入出金はクラウド会計に自動連携しておく
- 売上の締め日を月末に寄せる
- 現金取引を減らし、振込やカードなど記録が残る手段に寄せる
- 経費精算を翌月5日までに全社員提出ルールにする
こうした「前倒しルール」を社内に作ると、月次は自然と早くなります。
3-3 「税理士が来ないと月次が出ない」状態から脱却する
ここがこの記事でいちばん言いたいところです。
月次を出すのに税理士の訪問を待っていると、どうしても遅れます。
- 社内で仕訳の8割は入れる
- 税理士には月1でチェックだけしてもらう
- 経営に必要な“速報値”は社内で完結させる
この分担に変えると、経営が一段と軽くなります。
第4章 「会社で作る資金繰り表」はこう考える
4-1 基本構成はこの3行でいい
- 期首残高(スタート時点の現金・預金)
- 今月の入金予定(売掛金、現金売上、借入、その他)
- 今月の出金予定(仕入・外注・人件費・家賃・リース・返済・税金)
これを月ごと、あるいは週ごとに並べるだけで“山”と“谷”が見えます。
4-2 週次で見るともっとわかりやすい
資金がタイトな会社ほど「月次」より「週次」です。
給与は25日、家賃は月初、返済は15日…とバラバラに出ていきますよね。
週単位で見ると、「この週だけ残高が薄くなる」がはっきり見えるので、前倒し入金・支払延ばしなど手が打てます。
4-3 マイナスが見えたときの打ち手の順番
- 支払期日の交渉(仕入先・家賃・リース)
- 税金・社保の納付相談(分納)
- 短期運転資金の借入を金融機関に相談
- そもそもの固定費見直し
「ギリギリになって駆け込む」と相手も動きにくいですが、資金繰り表で1か月前に分かっていれば、みんな協力しやすいです。
第5章 キャッシュフローを見て経営すると何が変わるか
5-1 「利益が出そうだからOK」から卒業できる
キャッシュフロー経営とは、「お金が残るか」を基準にする経営です。
売上が増える施策でも、入金が3か月後で仕入が先行するなら、一時的に資金は減ります。
この“時間差”を分かった上で意思決定できるのがキャッシュフロー思考です。
5-2 本業でお金が増えているかを常にチェック
営業キャッシュフロー(本業で増減したお金)がマイナスなら、いくら利益が出ていても危険です。
資金繰り表に「本業からの入金」と「本業にかかる出金」を明示しておくと、
「売上はあるのに現金が増えない理由」が見えるようになります。
5-3 借入が“悪者”でなく“調整弁”になる
資金の動きが見えている会社は、銀行に相談するタイミングがうまいです。
「今月急ぎで貸してください」ではなく
「3か月後この支払いが来るので、今のうちにつなぎの資金を」
といえば、銀行も前向きに動きやすい。
キャッシュフロー経営は、借入を“怖いもの”ではなく“コントロールするもの”に変えてくれます。
第6章 事例で見る「税理士と会社のいい分担」
6-1 製造業A社:月次は社内10日・税理士チェックは月末
この会社はそれまで、税理士が来るまで数字が出ませんでした。
そこで、売上・仕入・経費の入力は経理担当が毎日クラウド会計に。
翌月10日に社長と経理で資金繰り表を確認。
月末に税理士がきて仕訳の手直しと節税アドバイス。
→ 結果、銀行への説明がスムーズになり、短期運転資金が出やすくなりました。
6-2 サービス業B社:週次資金会議を導入
入金が不規則で、給与と家賃の月末がしんどい会社でしたが、週次資金繰り表にしただけで、
「今週は仕入れを控える」
「この支払いは来週にずらす」
といった細かい調整ができるようになりました。
→ 「資金でバタバタしなくなったので、社長が営業に専念できた」という好循環が生まれています。
第7章 結局、会社を救うのは「資金繰りを考えたキャッシュフロー経営」
最後にいちばん重要な話です。
資金繰り表は“表”にすぎません。
本当に会社を守るのは、資金繰りという現場の数字を見ながら、キャッシュフローを意識して経営判断することです。
- 売上が増える施策でも、先にお金が出ていくなら資金対策をセットにする
- 設備投資の前に、返済スケジュールと税金の月を確認する
- 借入の条件変更(リスケ)をするなら、資金繰り表と一体で説明する
こうした「お金を中心にした経営」をしている会社は、多少売上がぶれても倒れません。
逆に、利益だけを見て経営している会社は、外部環境が変わった瞬間に資金が詰まります。
まとめ:社長が見るべき順番
- 今の現金はいくらあるか(通帳と期首残高)
- 今月・来月の入出金予定はどうなっているか(資金繰り表)
- 月次の売上・粗利はどうか(翌月10日までの速報)
- 借入返済と税金の大きな支払いはいつか(年間スケジュール)
- その上で投資や採用を決める(キャッシュフロー思考)
この順番で考えられるようになると、「お金の不安で眠れない夜」は確実に減ります。
ホームに戻る芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。