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資金繰り表の作り方と活用法|経営を安定させる実践術

資金繰り表の作り方と活用法

〜“お金の流れ”を読める経営者になるために〜


はじめに:数字の見える化が「経営の安心」をつくる

経営者の多くが口をそろえて言う言葉——
「売上は伸びているのに、なぜかお金が残らない」。

この答えはシンプルです。
“利益”と“お金”は違うから。

利益は会計上の数字ですが、実際に会社を動かすのは現金。
つまり、会社の“血液”とも言える資金の流れをつかむための道具が「資金繰り表」です。

しかし、「作り方が難しそう」「数字が苦手」と感じて手をつけていない経営者も多いでしょう。
実は、資金繰り表は複雑な会計知識がなくても作れます。
大切なのは“完璧”よりも“継続”。

この記事では、

  • 資金繰り表の基本構造
  • 実際の作り方
  • 経営判断に活かすヒント
  • 成功している企業の事例
    をわかりやすく解説します。

第1章 資金繰り表とは?「経営の羅針盤」である理由

資金繰り表は「お金の予定表」

資金繰り表とは、会社のお金の出入りを時系列で整理した表です。
「今月いくら入って、いくら出て、残りいくら残るのか?」を見える化します。

会計帳簿や試算表は「過去の実績」を示しますが、
資金繰り表は「未来の見通し」を示すもの。

つまり、資金繰り表は「これから何が起こるか」を教えてくれる経営の羅針盤です。


資金繰り表で分かる3つのこと

  1. 資金ショートの予兆がわかる
     いつ・どのタイミングで資金が足りなくなるかが見える。
  2. 投資や借入の判断がしやすくなる
     「今買ってもいいか?」「今月借りるべきか?」を冷静に判断できる。
  3. 銀行への信頼が高まる
     資金繰りを管理している会社は、金融機関から「管理能力が高い」と評価されます。

第2章 資金繰り表の基本構造を理解する

資金繰り表の基本構造はシンプルです。
下の3つのブロックで構成されます。


① 入金の部(お金が入る)

  • 売上入金
  • 売掛金回収
  • 借入金の入金
  • その他入金(補助金、保険金、雑収入など)

② 出金の部(お金が出る)

  • 仕入・外注費の支払い
  • 人件費・社会保険料
  • 家賃・光熱費
  • 借入金返済(元金+利息)
  • 税金・その他経費

③ 差引残高(資金残高)

資金繰り=入金 − 出金

この差額がマイナスになる月が“危険信号”です。


第3章 資金繰り表の作り方ステップ5

ステップ① 対象期間を決める

まずは「月次」か「週次」かを決めます。
通常は3か月〜6か月先を見通すのが基本です。

  • 安定している会社:月次でOK
  • 資金が不安定な会社:週次で管理

ステップ② 期首残高(スタート時点の現金)を記入する

銀行口座と現金残高を合わせた“今あるお金”を記入します。
これが資金繰り表のスタートラインです。


ステップ③ 入金予定を記入する

  • 売掛金の入金日
  • 現金売上
  • 借入予定(短期融資・手形貸付など)
  • その他の入金

過去の入金サイクルを参考に、確実性の高いものから入力します。


ステップ④ 出金予定を記入する

  • 仕入や外注の支払日
  • 給与支給日
  • 家賃、光熱費
  • 借入返済日
  • 税金(消費税・法人税など)の納付予定日

支払日が確定しているものを先に書くことで、資金の“波”が見えてきます。


ステップ⑤ 残高を計算し、マイナス月をチェック

入金 − 出金を差し引きし、翌月へ繰り越します。
残高がマイナスになる月が出たら、資金ショートのリスクあり。

この段階で、

  • 借入時期を前倒しする
  • 支払日を調整する
  • 経費削減を検討する
    などの対策を打てます。

第4章 実例で見る「資金繰り表の作り方」

ここで、実際の中小企業の事例を紹介します。


事例① 製造業A社(年商1億2,000万円)

状況

受注は安定しているが、支払いサイトが「60日後」、入金サイトが「90日後」。
売上は上がっているのに現金が不足する月が続出。

対応

資金繰り表を作成してみると、3月と6月に大幅な資金赤字が発生。
理由は「決算賞与」と「原材料費の支払」が重なっていたため。

結果

  • 銀行へ3か月前に短期運転資金を相談し、スムーズに融資実行
  • 取引先への支払サイトを「60日→75日」に見直し
  • 手形払いを減らし、入金・出金のバランスを調整

資金ショートを未然に防止
担当者からも「管理意識が高い会社」と評価され、追加融資もスムーズに。


事例② 飲食業B社(店舗3店・社員20名)

状況

コロナ禍を経て売上が回復しつつあったが、仕入れと人件費の増加で資金繰りが悪化。
特に3店舗の「賃料」「人件費」「食材費」の支払いが集中する月末に残高が厳しくなる。

対応

週次資金繰り表を導入し、“1週間ごとの資金の波”を可視化。
さらにPOSデータから「入金見込み日」を連動。

結果

  • 店舗ごとの収支管理が可能に
  • 売上が伸びる週に仕入れを集中させる運用へ転換
  • 無理な借入をせずに資金繰りを改善

資金繰り表が経営改善の意思決定ツールに変化。


第5章 経営判断に活かす資金繰り表の読み方

① 「マイナスのタイミング」を読む

資金残高がマイナスになる月がいつなのか。
それを早く見つけることで、事前対策が可能になります。

たとえば:

  • 借入金の実行日を前倒しする
  • 支払いを分割交渉する
  • 売掛金回収を早める

資金繰り表は「予測できる危機」を見つけるための道具です。


② 「季節変動」を把握する

製造業・建設業・飲食業など、業種ごとに季節変動があります。
資金繰り表を年間で並べると、
「資金が厳しくなる季節」が毎年ほぼ同じ時期に来ていることがわかります。

→ この周期を把握すれば、「借入・賞与・設備投資」のタイミングが最適化できます。


③ 「返済負担率」をチェックする

毎月の返済額 ÷ 月間キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)
返済負担率(%)

一般的に、30%を超えると要注意。
資金繰り表でこの比率を確認すれば、「借入余力」も判断できます。


④ 「黒字倒産」を防ぐ

会計上は利益が出ていても、現金が足りない「黒字倒産」。
その最大の原因は、資金繰りを見ていないこと

資金繰り表を見れば、利益とキャッシュのズレが明確に分かります。
「売上は増えたのにお金が減った」ときこそ、資金繰り表の出番です。


第6章 資金繰り表を活かす3つのコツ

コツ① 完璧を求めず、まず“動かす”

最初から完璧な表を作ろうとしないこと。
Excelやクラウド会計に入力しながら「自社の資金の流れ」を肌でつかむことが大切です。

シンプルな項目から始め、運用しながら精度を上げましょう。


コツ② 毎月更新をルール化する

資金繰り表は“作って終わり”では意味がありません。
「毎月更新」=経営習慣です。

  • 月末に前月の実績を反映
  • 翌月の入出金予定を確認
  • 数字が合わない部分を修正

この繰り返しで、経営者自身の「数字感覚」が研ぎ澄まされます。


コツ③ クラウド会計・AIツールを活用する

マネーフォワードクラウドやfreeeなどのクラウド会計を使えば、
銀行口座やクレジットカードの入出金を自動で反映できます。

また、近年はAIによる資金繰り予測機能も登場しています。

「もし売上が10%下がったら、3か月後の残高はどうなる?」

こうしたシミュレーションをAIが自動で提示してくれる時代です。


第7章 成功企業が実践する資金繰り活用術

事例① 建設業C社:キャッシュフロー会議を毎月開催

  • 資金繰り表をベースに「キャッシュフロー会議」を実施
  • 経理担当・現場責任者・社長が一緒に数字を見る文化を定着
  • 各現場の入金・支払予定を共有し、赤字現場を即把握

→ 結果:資金ショート0、金融機関との関係も強化。


事例② 美容業D社:月次資金繰りから「賞与原資」を明確化

  • 毎月の資金繰り表から、将来の資金余力を試算
  • 「この利益なら賞与に回せる額は〇円」と明確化
  • 社員への説明にも説得力が増し、モチベーション向上

→ 「資金繰り表=経営の見える化ツール」に進化。


第8章 資金繰り表を経営に活かすための「思考転換」

資金繰り表は、「お金が足りないときに作るもの」ではありません。
“お金を増やすために作るもの”です。

数字を見える化すると、無駄な支出が見え、投資のチャンスも見えてきます。
特に社長自身が資金繰りを理解している会社は、決断が早く、再建力も高い。

資金繰り表とは、会社の「生命維持装置」であり「未来計画表」なのです。


まとめ:資金繰り表が“経営を守る盾”になる

チェック項目状況コメント
3か月先までの資金繰り表を作っている☑️未来の見通しが立つ
資金繰りを毎月更新している☑️経営判断の精度が上がる
マイナス月が分かる仕組みがある☑️早期対策が可能
社内で資金情報を共有している☑️意識改革が進む
金融機関に資金繰り表を提示できる☑️信用力アップ

最後に:数字を「見える化」する社長が会社を守る

資金繰り表を作ることは、経営の“見える化”です。
「お金の流れを自分で説明できる社長」は、どんな時代でも強い。

難しく考える必要はありません。
まずはシンプルに、「入金」「出金」「残高」を毎月書き出すことから。

そこから生まれる“気づき”こそが、
経営を安定させる最大の武器となります。

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