資金繰りが苦しい時にリスケを検討すべき3つのサイン
資金繰りが苦しくなったとき、どこまできたらリスケを考えるべきか?
〜経営者が「再起」を図るための正しい判断ライン〜
はじめに:資金繰りの「限界ライン」を見誤らないことが命運を分ける
経営を続けていると、どんなに堅実な会社でも一度は「資金繰りの壁」にぶつかります。
売上の落ち込み、取引先の支払い遅延、人件費や仕入価格の上昇、そして返済負担——。
毎月の資金繰り表を眺めながら、経営者として最も頭を悩ませるのが「返済をこのまま続けて良いのか、それともリスケジュール(返済条件変更)を検討すべきなのか?」という判断です。
リスケを早すぎる段階で行うのもリスクがありますが、逆に「まだ大丈夫」と我慢しすぎてからでは、再建のチャンスを逃してしまうこともあります。
この記事では、リスケを検討すべき“3つのサイン”と、金融機関との正しい向き合い方、そしてリスケを経営再建の第一歩に変えるための実践的なポイントを解説します。
第1章 リスケとは?「延命措置」ではなく「再建の準備期間」
リスケジュール(Reschedule)の基本的な意味
リスケとは、金融機関との返済条件を見直すことを指します。
たとえば以下のような内容が一般的です。
- 元金返済を一定期間止めて、利息だけ支払う
- 返済期間を延ばして月々の返済額を減らす
- 複数の借入を一本化して、返済負担を軽くする
つまり、「借入の約束を守れない」と言っているのではなく、
「再建のために、一時的に呼吸を整えさせてほしい」という交渉です。
リスケを上手に活用すれば、
資金繰りにゆとりを生み、再生計画を立てる時間を確保できます。
第2章 リスケを検討すべき“3つのサイン”
サイン① 3か月先の資金繰りが赤字になる
最も分かりやすい判断材料は、「3か月先までの資金繰り表を作ったときに赤字になるかどうか」です。
たとえ今月・来月はなんとか回っていても、3か月後に残高がマイナスになる見込みなら、それは明確な黄色信号です。
資金繰り表は、「お金の未来予測」。
ここで重要なのは「売上が上がるはず」という希望的観測ではなく、実際に入金が確定している数字でシミュレーションすることです。
たとえば次のようなケースです:
- 売上の減少が続いている
- 手形の期日が迫っている
- 税金・社会保険の滞納が増えてきた
- 仕入代金の支払いが毎月ギリギリ
これらが重なっている状況では、リスケの検討を始めるべきタイミングです。
サイン② 「返済のために新たな借入をしている」
返済資金を賄うために、新しい借入(プロパー融資やカードローンなど)を繰り返すようになると、それは典型的な資金繰り悪化のサインです。
本来、借入は「将来の投資」に使うもの。
それを「返済のための借入」に転用している時点で、資金の流れが逆転しています。
さらに怖いのは、金融機関が「返済を続けているから大丈夫」と誤解してしまうことです。
その裏で会社のキャッシュは減り、実態はどんどん悪化していく——。
この段階に達したら、リスケの検討は“待ったなし”です。
サイン③ 税金・社会保険の支払いが滞り始めた
「資金繰りが苦しいけれど、銀行返済だけは止めたくない」と考える経営者は多いです。
しかし、税金や社会保険を後回しにしてしまうのは最悪のパターンです。
なぜなら、税金や社会保険の滞納は金融機関にすぐ伝わります。
金融機関が最も重視するのは「信用維持」であり、滞納=財務の危機サインとして厳しく見られます。
もし納付が難しい場合は、税務署や年金事務所への分納相談+リスケの同時進行が現実的です。
「銀行への返済を止めずに税金を滞納する」よりも、
「返済条件を見直して、税金を優先的に納める」ほうが信頼回復への道は早いのです。
第3章 リスケの前に行うべき3つの準備
リスケを申し出る前に、以下の準備を整えておくことで交渉がスムーズになります。
① 直近12か月の資金繰り表を作る
「なぜ返済が苦しくなっているのか?」を説明するために、
過去1年分の資金繰り実績を整理しておきましょう。
月ごとの入金・出金・残高を一覧化するだけでも、
金融機関の担当者は状況を客観的に把握しやすくなります。
また、「どのタイミングで資金が詰まりやすいのか」も見えるため、
今後の改善策を練る材料にもなります。
② 今後6〜12か月の資金繰り予定表を作る
「今後、どのように改善するのか?」を示すのが次のステップです。
リスケはあくまで「一時的な措置」であるため、
再建のシナリオを描いて提示することが信頼獲得のポイントです。
ここでは、以下のような要素を含めましょう。
- 売上回復の見通し(根拠を明確に)
- 固定費削減の具体策
- 新規取引・補助金・助成金の予定
- 代表者の私的資金投入の有無
③ 「なぜ今リスケが必要か」を明確に言語化する
金融機関は「本気で再建する意思があるか」を見ています。
ただ「資金が苦しいから止めてほしい」ではなく、
「立て直すための準備期間としてリスケが必要」という姿勢を伝えることが大切です。
具体的には、次のように整理しておくと良いでしょう。
- 今の資金繰り状況と課題
- 改善に向けた取り組み内容
- リスケ期間中に実施する経営改善策
- いつまでに通常返済へ戻す計画か
第4章 金融機関との交渉のポイント
① 早めに相談する
リスケの相談は「返済ができなくなってから」では遅すぎます。
担当者も上司に報告しづらくなり、支援を得にくくなります。
ベストなタイミングは、資金繰り表で3か月後に赤字が見えた時点です。
この段階なら、担当者も前向きに動けます。
② メインバンクに最初に相談する
複数の金融機関と取引している場合、
まず最初に相談すべきはメインバンク(取引量が最も多い銀行)です。
他行よりも早く情報を共有し、誠実に話すことで、
「この会社は隠しごとをしない」という印象を与えられます。
③ 「逃げない姿勢」を見せる
金融機関が最も嫌うのは、「連絡が取れない」「嘘をつく」対応です。
逆に、正直に数字を見せ、誠実に話せば、担当者は味方になってくれます。
たとえばこう伝えると良いでしょう:
「現状を正直にお伝えします。返済は厳しいですが、立て直すための計画をまとめています。リスケ期間をいただければ、再建の目途を立てられます。」
こうした姿勢は、将来的に新たな融資を引き出すときにもプラスになります。
第5章 リスケ後にやるべき「再生の3ステップ」
リスケは“ゴール”ではなく“再スタート”です。
ここからが本当の経営改善の始まりです。
ステップ① 資金繰り表の「毎月更新」を習慣化
リスケ後こそ、毎月の資金繰りを徹底管理することが必要です。
数字の見える化が進めば、「資金の詰まりポイント」を早期発見できます。
マネーフォワードクラウドなどのクラウド会計ソフトを活用すれば、
実績ベースで資金繰りを可視化でき、次の打ち手を判断しやすくなります。
ステップ② 利益構造の見直し
リスケ期間中に最も取り組むべきは、「粗利の再設計」です。
「売上を上げる前に、利益率を上げる」発想が重要です。
たとえば:
- 不採算部門の縮小
- 原価率の高い商材の見直し
- 取引条件の再交渉
- 社内の生産性改善(AI・DXの活用)
「売上=頑張り」「利益=知恵」
この意識転換が再生の第一歩です。
ステップ③ 再建計画の「実行・報告」
金融機関は、リスケ中も会社の動きを見ています。
定期的に経営改善の報告をすることで、信頼が積み上がります。
報告のコツはシンプルです。
- 3か月に一度、資金繰り表と実績を提出
- 売上・利益・借入残高の推移を説明
- 改善施策の実行状況を共有
「この会社はリスケを前向きに使っている」と判断されれば、
将来的な追加融資や支援策の対象にもなりやすくなります。
第6章 よくある誤解と注意点
誤解① リスケしたら信用がなくなる?
確かに一時的に「返済条件変更先」として扱われますが、
リスケ=信用喪失ではありません。
むしろ、早期に誠実な対応を取る経営者ほど、
金融機関から「再建意欲が高い」と評価されます。
誤解② リスケしたら新規融資は受けられない?
短期的には制限がかかりますが、
再建が進みキャッシュフローが安定すれば、再度融資は可能です。
特に経営改善計画書をしっかり作成して提出している会社は、
「再建プロセスが見える会社」として金融機関から信頼されます。
誤解③ リスケは最後の手段だから、ギリギリまで耐えるべき?
実際には、早めのリスケこそ再建の鍵です。
ギリギリまで粘るほど、税金滞納・仕入れ遅延・給与未払いなど、
連鎖的な信用不安が広がり、打てる手が減っていきます。
第7章 リスケを「未来へのチャンス」に変える経営者へ
資金繰りの苦しさは、経営者にとって心身ともに大きな負担です。
しかし、リスケを前向きに捉え、「再建の準備期間」と位置づければ、
会社を立て直すチャンスにもなります。
むしろ、ここで経営数字を深く理解し、
キャッシュフロー経営を習慣化できた経営者ほど、
その後の成長カーブは確実に上がっていきます。
まとめ:リスケ判断の基準チェックリスト
| チェック項目 | 状況 | コメント |
|---|---|---|
| 3か月先の資金繰りが赤字になる | ☑️ | リスケ検討開始サイン |
| 返済のために借入をしている | ☑️ | 危険信号、早期相談を |
| 税金・社会保険を滞納している | ☑️ | 至急対応が必要 |
| 取引先への支払い遅延が発生 | ☑️ | 信用リスクが高い |
| 社長が個人資金を投入して凌いでいる | ☑️ | 限界サイン |
最後に:資金繰りは「孤独な戦い」ではない
資金繰りの苦しみを一人で抱え込むと、判断を誤ることがあります。
そんなときこそ、税理士・金融コンサルタント・認定支援機関など、
外部の専門家に早めに相談してください。
正しく現状を整理し、再建計画を立てることで、
金融機関も「支援できる会社」として前向きに動いてくれます。
リスケとは、会社を立て直すための“猶予”であり、
そして「もう一度未来を描き直すチャンス」でもあります。
芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。