決算書で最も重要なのは現預金!黒字倒産を防ぐキャッシュ経営
決算書で最も重要なのは「現預金」だ!
〜黒字倒産を防ぎ、会社を守るキャッシュ経営の真実〜
はじめに:黒字なのにお金がない——なぜこんなことが起こるのか?
決算書を見ると黒字。
にもかかわらず、通帳の残高は減り続けている。
「利益は出ているのにお金が増えない」
「決算書では問題ないと言われるのに、資金繰りが苦しい」
このような悩みを抱える経営者は少なくありません。
その理由は明確です。
決算書上の利益と、実際の現金の動き(キャッシュフロー)はまったく別物だからです。
いくら自己資本比率が高くても、現預金が足りなければ会社は倒産します。
これが、いわゆる「黒字倒産」です。
この記事では、
- 決算書のどの数字を経営者が見るべきか
- 現預金こそが経営の生命線である理由
- 黒字倒産を防ぐためのキャッシュフロー経営の実践法
を、わかりやすく解説していきます。
第1章 なぜ「黒字倒産」が起こるのか?
会計上の利益は“幻”の利益になることがある
損益計算書に出てくる「利益」は、発生主義という会計ルールで作られています。
つまり、売上や費用が「現金の動き」ではなく「発生した時点」で計上されているのです。
たとえば、
- 売上を計上したけど入金は2か月後
- 材料代や外注費はすでに支払い済み
というケースでは、決算書上は利益が出ていても、実際の現金は減っていることになります。
黒字倒産の典型パターン
- 売上は順調に増えている
- 仕入・外注・人件費も増える
- 受注が多くて忙しい
- しかし入金は先、支払は先行
- 現金が足りず、資金ショート
結果として、「黒字倒産」という悲劇が起こります。
つまり、利益よりも現金の流れを見ていなかったことが最大の原因なのです。
第2章 決算書の数字は「結果」しか映していない
損益計算書は「過去の成果」、貸借対照表は「蓄積の姿」
損益計算書(P/L)は、売上や費用を集計し、「利益」を示します。
しかし、ここには現金の残高や流れは一切反映されていません。
一方、貸借対照表(B/S)は、会社の資産・負債・純資産をまとめた“財務のスナップショット”です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資産 | 現金・売掛金・在庫・建物・機械など |
| 負債 | 借入金・買掛金・未払費用など |
| 純資産 | 過去の利益の蓄積(自己資本) |
問題は、この中で「現金」はほんの一部にすぎないということです。
利益が出ていても、現金が減る構造はここに隠れています。
「自己資本比率が高い」=安全とは限らない
多くの経営者が「自己資本比率が高い=健全な会社」と考えます。
確かに、借入依存が低く、安定した会社に見えます。
しかし、固定資産(機械・土地・建物)が多いと、
いざというときに現金化できない資産ばかりが積み上がります。
たとえば:
- 現金 1,000万円
- 土地建物 5,000万円
- 借入 2,000万円
→ 自己資本比率 約67%(高い!)
それでも現金が1,000万円しかなければ、支払いに詰まれば即アウトです。
自己資本比率の高さよりも、「現預金の厚み」が会社を守る。
これが経営の現実です。
第3章 現預金こそが「会社の呼吸」
現金がなければ会社は息ができない
会社にとって、現金は「血液」であり「呼吸」です。
現金が止まれば、どんなに利益があっても倒れてしまいます。
「利益」は時間をかけて回復できますが、
「資金ショート」は一瞬で会社を終わらせます。
つまり、経営者は「利益」よりも「現金残高」と「資金繰り」を最優先で見るべきなのです。
経営者が最初に見るべきは通帳の数字
多くの社長が毎朝メールを見るように、
毎朝、通帳残高を見る習慣をつけること。
- 今日支払う予定はいくらか
- 今週の入金はどの現場分か
- 来週の支払いは資金で賄えるか
これを日々確認するだけで、資金ショートは大幅に防げます。
現金を見ている社長は、判断が早い。
現金を見ていない社長は、決断が遅れる。
この違いが、資金の安定と経営の安定を左右します。
第4章 決算書で「本当に見るべき数字」はどこか?
損益計算書よりも貸借対照表の「資金部分」を見る
貸借対照表でまず確認すべきは、次の3項目です。
- 現金・預金の残高
- 売掛金(回収前の売上)
- 買掛金・未払費用(支払予定)
この3つのバランスを見ることで、会社の資金繰り状況が見えます。
売掛金が多くて買掛金が少ない → 入金遅れの可能性
買掛金が多くて現金が少ない → 支払資金が足りない危険
損益計算書の「黒字」より、貸借対照表の「現金と負債の関係」を見ましょう。
「現金比率」で会社の安全度を測る
現金比率 = 現金・預金 ÷ 月商
たとえば:
- 現金1,000万円
- 月商2,000万円
→ 現金比率50%
理想は、月商の1.5〜2か月分の現金保有。
これだけあれば、突発的な支払いにも耐えられます。
現金比率が低いほど、ちょっとした入金遅れで資金繰りが苦しくなります。
第5章 固定資産が多い会社ほど危険な理由
固定資産は「動かない資産」
建設業・製造業・運送業などでは、
設備投資や車両・建物を多く持つ会社が多いです。
しかし、固定資産は「現金化できない資産」です。
また、保有しているだけで維持費や減価償却費がかかります。
利益が出ていても、現金が減っていく構造がここにあります。
“土地は利益を生まない”
この言葉は、資金繰りの現場を知る経営者ほど実感しているものです。
固定資産を持ちすぎると資金繰りが固まる
固定資産を現金で買うと、即座に資金が減ります。
借入で買うと、返済が続く限りキャッシュフローを圧迫します。
どちらにしても、「資金の流動性」が落ちるのです。
決算書上は立派でも、
通帳にはお金がない——これが黒字倒産の典型です。
固定資産を持つかどうかの判断基準
次の3つを基準にしましょう。
- その資産が「直接利益を生むか」
- 借入金で購入する場合、「返済原資」が確保できているか
- 売上に対する固定資産比率が高すぎないか(目安:50%以内)
もし、利益を生まない資産なら、思い切って処分することも経営判断の一つです。
第6章 キャッシュフロー経営で“お金が残る会社”をつくる
キャッシュフロー経営とは
キャッシュフロー経営とは、「会計上の利益」ではなく、
お金の流れ(入金と出金)で経営を判断する方法です。
お金が入るタイミングと出ていくタイミングを管理し、
常に“資金が途切れない状態”を維持することを目的とします。
キャッシュフロー経営の3ステップ
ステップ①:資金繰り表を作る
1〜3か月先までの入金・支払予定を可視化します。
これにより、先を読んだ資金判断が可能になります。
ステップ②:現金残高を毎日チェックする
「現金は利益よりも正直な数字」
毎日通帳を見ることで、経営判断のタイミングがつかめます。
ステップ③:営業キャッシュフローをプラスに保つ
営業キャッシュフローがプラスなら、会社の体質は健全。
マイナスが続くなら、利益構造そのものを見直すサインです。
経営者が見るべき“3つのキャッシュ”
| 区分 | 意味 | 重点管理ポイント |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 本業の稼ぐ力 | 売掛金回収・原価率・人件費 |
| 投資キャッシュフロー | 設備投資の使い方 | 償却バランス |
| 財務キャッシュフロー | 借入・返済 | 借入金の適正化 |
キャッシュの流れを3つに分けて見ることで、
「どこでお金が減っているか」が一目で分かります。
第7章 黒字倒産を防ぐ7つの実践ポイント
- 現金残高を毎日確認する
- 資金繰り表を常に更新する
- 売掛金の回収条件を短縮する
- 買掛金・外注費の支払い条件を最適化する
- 利益よりも営業キャッシュフローを重視する
- 借入金の返済スケジュールを見直す
- 固定資産は必要最低限にする
この7つを実践すれば、決算書の見た目に惑わされず、
“お金が残る経営”が実現できます。
第8章 現預金を重視する経営がもたらす3つのメリット
① 経営判断が早くなる
資金繰りが見える経営者は、
「今、投資していいか」「採用できるか」を即断できます。
判断スピードが会社の生死を分けるのです。
② 金融機関の信頼が高まる
銀行は「現金がある会社」を最も評価します。
自己資本比率よりも、実際の資金余力を重視します。
現金を厚く持つことで、融資の交渉力も上がるのです。
③ 社員と取引先の安心感が生まれる
現金に余裕のある会社は、
給与遅延や支払遅延の心配がなく、信頼が高まります。
「資金に余裕がある=会社に余裕がある」
この心理的安定が、経営を強くします。
まとめ:経営を救うのは“利益”ではなく“現金”
| 数字 | 意味 | 限界 |
|---|---|---|
| 利益 | 会計上の成果 | 現金が伴わないことがある |
| 自己資本比率 | 財務体質の指標 | 固定資産が多いと危険 |
| 現預金 | 経営の生命線 | これが尽きると倒産 |
結論として、
決算書で最も重要なのは「現預金」そのものです。
黒字でも現金がなければ倒産します。
赤字でも現金があれば会社は生き続けます。
数字の中で最も嘘をつかないのが、通帳の残高です。
そこに、経営の真実があります。
芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。