赤字仕事は必要?断り方と判断基準を解説|経営者のための実務戦略
お付き合いで受ける赤字仕事は本当に必要か?
低粗利の仕事とどう向き合うべきか
〜経営者の意思決定をラクにする実務的ヒント〜
はじめに:お付き合い仕事は会社の利益を奪う“静かな経営リスク”
多くの経営者が口にする悩みがあります。
- 「お得意先の頼みだから断れない…」
- 「利益が出ないと分かっていても受けてしまう…」
- 「将来の仕事につながるかもしれないから…」
- 「勉強代だと思って引き受けたけれど、結局赤字だった…」
“お付き合い仕事”“低粗利の仕事”“赤字の仕事”
これらは会社の体力を静かに削り続けます。
実は、会社の利益を食い潰すのは
派手な赤字ではなく、小さな赤字仕事の積み重ねです。
では、
“赤字仕事は一切やるべきではないのか?”
と言うと、必ずしもそうではありません。
赤字仕事にも 「やるべきもの」と「やってはダメなもの」 の2種類があります。
この記事では、
経営者が迷ったときに判断できるよう、
- 赤字仕事の種類
- やるべき場合とやるべきでない場合
- 将来の取引に影響する場合の対処法
- 赤字仕事を“価値ある投資”に変える方法
- 断り方の具体例
を徹底解説します。
第1章 赤字でも“やるべき仕事” と “やってはいけない仕事” がある
まずはこの本質を理解してください。
■ やるべき仕事は「戦略的赤字」「学習的赤字」
これは将来の利益につながる赤字です。
● 戦略的赤字の仕事
- 新市場に参入するため
- 大手企業との信用獲得のため
- 将来の高粗利案件につながる可能性が高いとき
- 短期的赤字だが、長期的にはプラスになると判断できるとき
※この場合「計画された赤字」です。
● 学習的赤字の仕事(勉強代)
- 技術を高めるための新分野
- 学び・ノウハウの取得のため
- 自社が今後参入したい分野の経験蓄積
ここは経営者の判断によっては“投資”になります。
ただし!
学習的赤字には「上限設定」が必要です。
- 時間
- コスト
- 担当者
- 外注費
どれかが大きく膨らむなら、学習ではなく“浪費”になります。
■ やってはいけない赤字は「構造的赤字」「お付き合い赤字」
これは会社の体力を削り続ける赤字です。
● 構造的赤字の仕事
- 毎回、同じ取引先の仕事が薄利
- 単価が叩かれすぎて利益が取れない
- 営業コスト・外注費で常にマイナス
- 値上げできない状態が続いている
これは“改善できない構造”の赤字です。
● お付き合い赤字の仕事
- 「頼まれたから仕方なく」
- 「断ると気まずい」
- 「昔からの縁だから」
- 「今後のために…」
こうした曖昧な理由で受ける仕事は、
経営を確実に弱らせます。
✔ 結論:
赤字仕事は「戦略」「学習」があればOK。
それ以外は原則NG。
この判断が経営の明暗を分けます。
第2章 赤字仕事を続けると起こる3つの悲劇
赤字仕事を続ける会社には共通の問題があります。
① 社員が疲弊する(やる気が下がる)
赤字仕事は「やらされ感」が強くなり、
- モチベーション低下
- 過剰労働
- 職人の士気低下
- 現場の質低下
につながります。
② 経営が“粗利の低い会社”に変わってしまう
粗利率の低い案件ばかりやると、
全体の粗利率がじわじわ低下します。
粗利率が下がると、
販管費を吸収できず、利益が出にくくなります。
③ 会社の“時間”が奪われる
赤字仕事ほど時間を奪います。
- 手戻り
- クレーム対応
- 値段交渉
- 調整
- 納期変更
利益ゼロなのに時間だけ奪う仕事は、
会社の成長を止めてしまいます。
第3章 しかし、断れない…
「断ったら今後の取引に影響が出そう」どう対処すべきか?
これは経営者が最も悩むポイントです。
取引先によっては、
赤字仕事を断ることで将来の案件がなくなる可能性は確かにあります。
では、どう対処すべきか?
第4章 対処法① 「赤字理由」を数字で説明する(感情ではなく数字)
赤字仕事を断るときに一番大切なのは、
感情論ではなく数字で話すことです。
取引先も「感覚で断られる」のは嫌います。
しかし、
- 人工が◯人工必要
- 材料費が◯円
- 外注費が◯円
- 粗利率が◯%しか取れない
と数字で説明すると、
相手は“納得せざるを得ない”状態になります。
第5章 対処法② 採算ラインを共有する
「当社では◯%以下の粗利率の工事は受けない方針です」
と、採算ラインをルールとして説明します。
これは相手にとっても“明確な基準”になります。
第6章 対処法③ 代替案を提示する(Win-Win型の断り)
ただ断るのではなく、
代替案を提示します。
例:
- 時期を後ろにずらせば可能
- 工程を簡素化した仕様なら可能
- 一部工程は外注を提案
- 金額が◯◯なら受けられる
相手も「代替案がある」と冷静に判断できます。
第7章 対処法④ 受けるなら“条件付き”で受ける
赤字だが絶対に断れない場合は、
次のような条件をつけます。
● ① リードタイムを延ばす
→ 自社に無理のないスケジュールで対応
● ② 利益率の高い工事とセットにする
→ 低粗利を薄める戦略
● ③ 追加工事は絶対に追加請求
→ 建設業で最も多い利益ロスは「追加工事の漏れ」
● ④ 次回からは単価の見直しを前提にする
→ 継続赤字を避けるための初期条件
第8章 対処法⑤ 「戦略的に受ける赤字」を明確にする
赤字仕事でも、明確な目的があれば価値になります。
たとえば:
- 新分野への参入経験
- 大手との取引実績
- 高難度技術の習得
- 将来の高粗利案件への布石
- 社内教育の場として活用
これらは“投資的赤字”です。
しかし必ず、
✔ 赤字の上限
✔ 期間
✔ 担当者
✔ 学びの内容
を明確にすること。
漫然と受けるのはNG。
第9章 赤字仕事を受ける判断基準チェックリスト(実務向け)
以下の項目に「はい」が多いほど受けてはダメです。
■ 受けない方がいい
- 粗利率20%未満
- 見積の追加項目が多い
- この取引先はいつも価格交渉が厳しい
- 社員が疲弊する
- 手戻りが多い
- 将来につながらない
- 過去に赤字だったが改善されていない
■ 条件付きなら受けてもいい
- 高難度のため技術習得になる
- 将来の案件に明確につながる
- 大口顧客との信頼構築
- こちら側から条件を提示できる
- 内部で学びが残る
第10章 経営者が覚えるべき本質
「赤字仕事は“断る力”が会社を強くする」
赤字仕事の本当の問題は、
✔ 会社の時間
✔ 社員の労力
✔ 次に獲得できる利益機会
これらを奪うことです。
断れない会社は、
結局“儲かる仕事を断る会社”になってしまいます。
逆に、
赤字を見極めて“断る力”がある会社は、
利益が残り、社員が成長し、時間が確保されます。
まとめ:赤字仕事は「選ぶ時代」へ
自社の利益と信頼の両立が経営力である
赤字仕事は悪ではありません。
しかし、無自覚に引き受けるのは危険です。
重要なのは次の3つ。
① 赤字仕事には種類がある
- 投資的赤字
- 学習的赤字
- 構造的赤字
- お付き合い赤字
② やってはいけないのは「構造的」「お付き合い」赤字
→ これは会社を確実に弱くする
③ 断れないときは“条件・数字・代替案”で対処
→ 感情ではなくロジックで説明する
赤字仕事を“戦略的に選べる会社”こそ、
利益を残し、資金繰りが安定し、社員が働きやすい会社になります。
芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。