財務

資金繰り表の始め方と作成レベルアップ術

資金繰り表はどこから作成したらいい?

〜ゼロから始めて“使いこなせる”までのレベルアップ法〜


はじめに:資金繰り表は“財務体力”を鍛える筋トレ

経営者の多くが抱える悩み——
「資金繰り表って難しそう」「何から手をつければいいのかわからない」。

でも安心してください。
資金繰り表は、最初から完璧を目指す必要はありません。

大切なのは、「作る」ことよりも「見る習慣をつける」こと。
毎月数字を見ることで、“資金感覚”が自然に磨かれていきます。

この記事では、

  • 資金繰り表を作る最初の一歩
  • シンプル版→標準版→実践版へのステップアップ方法
  • 会社規模や業種別の応用ポイント
    を、実例を交えながら解説します。

第1章 資金繰り表とは?数字を“未来の味方”に変えるツール

資金繰り表とは、「会社の財布の中身」を未来に向けて見通すための表です。
具体的には、いつ、いくら入って、いくら出るのかを時系列で並べるもの。

  • 「今月は入金が多いから安心」
  • 「3か月後に赤字になるから手を打とう」
  • 「来月の賞与と返済が重なるな」

こうした“先読み”ができるのが、資金繰り表の最大の価値です。

たとえるなら、資金繰り表は「経営のナビゲーションシステム」。
地図を見ずに運転するような経営から、目的地を意識した経営に変わります。


第2章 レベル1:最初は「通帳ベース」から始めよう(初級)

ステップ① 銀行口座と現金の動きをノートに書き出す

最初の一歩は、Excelでも会計ソフトでもなく、「メモ」で構いません。

  • 今ある現金はいくらか
  • 今週いくら入るか(売上・入金)
  • 今週いくら出るか(仕入・人件費・支払)

たったこれだけで、現金の増減が“肌感覚”で分かります。

例:

日付入金内容出金内容差引残高
5/1売上入金 100万円仕入 40万円60万円
5/10借入金 50万円給与 60万円50万円
5/15家賃 10万円40万円

このような手書きレベルで十分です。
重要なのは「現金がどう動くかを自分の目で見る」こと。


ステップ② “週次”で残高を追う習慣をつける

資金繰りが苦しい会社の共通点は、「残高を見ていない」こと。
最低でも週に1回、通帳残高をチェックし、「来週いくら残るか」を予想してみましょう。

これだけで、「お金の波」が見えてきます。
たとえば、「第3週が毎月苦しい」「給料日と返済日が重なる」など。
それが分かるだけで、次の打ち手を考えられます。


ステップ③ 「今月・来月・再来月」を一枚にまとめる

資金繰りのコツは、“先をまとめて見る”こと。
今月だけでなく、3か月先までの資金を俯瞰できるようにします。

最初はざっくりで構いません。

  • 売上の入金予定
  • 主要な支払(仕入・人件費・税金)
  • 借入返済

これを並べて「資金がマイナスになる月」を見つけることが目的です。


第3章 レベル2:Excelで「入金・出金」を見える化する(中級)

ステップ① シンプルなフォーマットを作る

Excelを使う場合、まずは以下の3ブロックを作りましょう。

入金合計出金合計差引残高期末残高

これに「売上入金」「仕入」「人件費」「返済」「税金」などの項目を行に入れます。

月ごとの資金推移をグラフ化すれば、赤字月が一目瞭然です。


ステップ② 過去3か月の実績を入力する

まずは「過去」を整理することから。
過去の入出金データを3か月分入れてみましょう。

  • どの月に資金が減っているか
  • なぜその月に減ったのか
  • どの費用が資金を圧迫しているか

過去を振り返ることで、「未来予測」の精度が上がります。


ステップ③ “未来3か月”の予定を加える

ここで初めて、「資金繰り表」が完成します。
入金予定(売上、入金日)と出金予定(支払日)を入力して、
「残高がマイナスになる月」を赤く表示してみましょう。

Excelの条件付き書式で簡単に色分けできます。

この段階で、

「このままでは7月に資金がマイナスになりそう」
という“未来の気づき”が生まれれば、もう立派な経営者の感覚です。


第4章 レベル3:クラウド会計で「自動化・見える化」(上級)

ステップ① 銀行・クレジット連携で自動反映

マネーフォワードクラウドやfreeeなどを使うと、
銀行やカードの入出金が自動で反映され、リアルタイムで資金繰りを可視化できます。

「入力の手間」が大幅に減り、精度の高い資金管理が可能になります。


ステップ② AI予測で“未来の残高”を可視化

AI機能を使えば、過去の入出金パターンから自動で予測もできます。

  • 売上が10%下がった場合の資金残高
  • 新規投資をした場合の影響
  • 借入返済を増額した場合の資金余力

こうしたシミュレーションが自動で出せるようになると、
「感覚経営」から「数字で判断する経営」へレベルアップします。


ステップ③ チームで資金繰りを共有する

資金繰りを“社長の頭の中”だけで管理している会社は、危険です。
クラウド会計なら、経理担当・社長・税理士が同時に閲覧できます。

毎月の「キャッシュフロー会議」で、

  • 今後3か月の資金予測
  • 売掛金・買掛金の動き
  • 借入返済・税金支払のタイミング
    を共有すれば、組織全体の危機管理力が格段に上がります。

第5章 業種別・会社規模別の資金繰り表の考え方

① 建設業・製造業:工事入金のズレを管理する

完成工事制や手形取引では、入金まで時間がかかるため、
資金繰り表に「受注残」と「請求予定日」を必ず入れましょう。

工事別の入出金管理ができると、赤字現場を早期に発見できます。


② 飲食業・小売業:日次キャッシュフローで感覚を掴む

毎日の売上が入金される業態では、「日次資金繰り表」が有効です。
POSデータやレジ締めの金額を元に、
「売上→仕入→人件費→家賃」の流れを可視化しましょう。

週ごとの資金推移を見れば、「繁忙期」と「閑散期」の差が明確になります。


③ サービス業・コンサル業:税金・賞与の月に注意

サービス業では支払いが固定費中心のため、
資金繰りは安定しやすい一方、
「税金の支払い月」や「賞与月」で急に資金が減る傾向があります。

→ 賞与・消費税・法人税など“突発的な出金”を年間表で管理しましょう。


第6章 レベルアップのための“3つの壁”と突破法

壁① 数字が苦手で続かない

グラフ化で直感的に見る
Excelやクラウドの折れ線グラフで「資金残高の推移」を可視化。
視覚的に減り始めたタイミングを把握できれば、継続が楽になります。


壁② 入力が面倒

自動連携とテンプレートを活用
銀行連携・定型フォーマット・ショートカットキーを活用。
一度フォーマットを作れば、2回目以降は“数字を埋めるだけ”で完成します。


壁③ 見ても活用できない

「問い」を持って見る
ただ数字を見るのではなく、毎回3つの質問を投げてください。

  1. 今月・来月の残高はプラスか?
  2. どの支出が重いか?
  3. 先に手を打てることはあるか?

この“問い”を繰り返すことで、数字が“経営の会話”になります。


第7章 「作る→使う→活かす」3ステップで財務力が上がる

  1. 作る(初級):通帳ベースで現金の動きを書き出す
  2. 使う(中級):Excelで入出金を可視化し、未来予測を立てる
  3. 活かす(上級):クラウド会計でリアルタイム共有・AI分析

この3段階を踏むことで、資金繰り表は「作業」から「武器」に変わります。


第8章 まとめ:「資金繰り表は経営者の習慣」

レベル内容ゴール
初級通帳ベースで現金を把握お金の流れを感覚で理解
中級Excelで入出金を管理資金ショートを事前に把握
上級クラウド連携・AI分析資金戦略をリアルタイム管理

資金繰り表は、作ることが目的ではありません。
「お金を読む力を身につけること」こそが本当の目的です。

この力を持つ社長は、どんな状況でも倒れません。
数字を味方につけて、資金に追われる経営から、資金を操る経営へ。
今日から一歩ずつ、資金繰り表を“自分の経営言語”にしていきましょう。

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