法人設立・法人成り時の資本金はいくらに設定すべきか?
〜1円から設立できる時代に経営者が考えるべき資本金戦略〜
はじめに
会社法改正により、株式会社は資本金1円から設立できるようになりました。
しかし、実際に「1円で設立していいのか?」と問われると、経営者の多くが迷います。
資本金は会社のスタートダッシュに直結する「初期体力」です。
多すぎても少なすぎても問題があり、事業内容・資金調達・信用度など複数の要素から最適額を判断する必要があります。
この記事では、1円資本金のメリット・デメリット、資本金を決める際の考え方、金融機関・取引先・税務の観点を交えて詳しく解説します。
資本金とは?
資本金とは、会社を設立する際に株主が出資する金額のこと。
会社の元手であり、信用力の源泉となります。
- 株式会社:最低1円から設立可能(会社法改正後)
- 合同会社:1円から設立可能
ただし、資本金は単なる「名目」ではなく、設立後の運転資金としても使われるため、額の大小が事業運営に直接影響します。
1円資本金のメリット・デメリット
メリット
- 起業ハードルが低い
→ 少ない元手で会社が作れる。 - リスクが小さい
→ 失敗したときの自己資金リスクを抑えられる。 - スピード設立が可能
→ 資金調達に時間をかけず即起業できる。
デメリット
- 信用力が極端に低い
→ 金融機関の口座開設が難しい、取引先の信用が得にくい。 - 運転資金が不足する
→ 設立直後からキャッシュ不足に陥るリスク。 - 税制上の不利がある場合も
→ 資本金1,000万円未満の会社は消費税免税事業者になれるが、あまりに低すぎると逆に不信感を持たれる。
いくら以上あれば良いのか?
1. 金融機関口座開設の観点
- 銀行によっては、資本金が極端に低い会社は口座開設を断られることがある。
- 特に大手銀行は資本金300万円~500万円程度あるとスムーズ。
2. 取引先の信用
- BtoB取引では資本金表示が名刺・会社概要に記載される。
- 「資本金1円」の会社に発注することに不安を持つ取引先も多い。
- 少なくとも300万円以上、できれば500万円以上あると安心感を与えやすい。
3. 税務・消費税の観点
- 資本金1,000万円未満の会社は原則2年間消費税免税。
- ただし、資本金1,000万円ギリギリに設定すると、金融機関や取引先への信用力もある程度確保しやすい。
4. 運転資金の観点
- 設立後6か月~1年程度の運転資金+初期投資額を目安に設定するのが望ましい。
- 例:月商100万円規模のサービス業→資本金300万円以上
- 例:設備投資が必要な製造業→資本金1,000万円以上
パターン別の資本金設定例
パターン1:個人事業主から法人成り(小規模事業)
- 業種:士業・コンサル業・軽サービス業
- 推奨資本金:300万円~500万円
- 理由:消費税免税メリットを活かしつつ信用力も確保
パターン2:初期投資が大きい業種(製造業・建設業)
- 設備や人員を抱える必要がある
- 推奨資本金:1,000万円以上
- 理由:運転資金確保と金融機関からの融資審査を有利に
パターン3:スタートアップ(外部投資家がいる)
- 将来的に増資や資金調達予定
- 資本金は数百万円〜数千万円
- 理由:投資家や銀行の信用確保
信用・信用調査機関の視点
帝国データバンクや東京商工リサーチなど、信用調査会社は資本金や自己資本比率を重要指標として見ます。
資本金が少ない=資金基盤が弱いと判断されるリスクがあります。
金融機関からの融資の観点
- 資本金が大きいほど「オーナーがリスクを負っている」と見なされ信用度が増す。
- 資本金が小さいと「自己資金が足りない=覚悟が足りない」と評価されることがある。
事例
成功事例:資本金500万円で安定スタート
個人事業主から法人成りしたコンサル業A社。
資本金500万円を設定し、銀行口座開設もスムーズ、取引先からの信用も得られた。
失敗事例:資本金1円で不信感
B社は資本金1円で法人設立。
銀行口座開設に時間がかかり、取引先から「本当に大丈夫か?」と不信感を持たれ、商談が流れた。
経営者が考えるべきポイント
- 事業計画から必要資金を算出
- 消費税免税のメリットと信用力を両立
- 銀行・取引先・信用調査会社の目線を意識
- 増資の可能性も見込む
まとめ
- 会社は資本金1円から設立できるが、信用・資金・税務面で注意が必要
- 金融機関・取引先の信用を考えると、少なくとも300万円以上、できれば500万円以上がおすすめ
- 設備投資が大きい業種や融資前提の事業は1,000万円以上が望ましい
- 資本金は単なる「設立要件」ではなく、会社の初期体力であり、信用の源泉
最後に
私はこれまで多くの経営者の法人設立・法人成りをサポートし、資本金設定の重要性を目の当たりにしてきました。
「1円で設立できる=1円で設立すべき」ではなく、事業内容・資金計画・信用戦略を踏まえた資本金設定こそが、会社の未来を決めます。
これから法人設立を検討している方は、ぜひ本記事のポイントを参考に、自社にとって最適な資本金額を検討してみてください。
ホームに戻る芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。