税金

節税だけじゃない!資金繰りを良くする固定資産の処理判断と経営戦略

固定資産に計上する基準額と付随費用の考え方
〜 資金繰りを良くする減価償却の“選択と戦略” 〜


はじめに:同じ支出でも「処理の仕方」で資金繰りが変わる

「パソコンを買ったけど、経費にしていいのか?」
「10万円を超えたから固定資産?それとも一括償却資産?」

このような質問を経営者から受けることが非常に多いです。

実は、同じ支出金額でも「どう経理処理するか」で資金繰りが大きく変わるのです。

この記事では、

  • 固定資産に計上する基準額とその判断基準
  • 10万円~20万円未満の資産の処理方法の違い
  • 少額減価償却資産・一括償却資産・固定資産のメリット・デメリット
  • 経営者が取るべき資金繰りの最適戦略

を、数字と事例を交えて解説します。


第1章 固定資産に計上する基準額とは?

● 国税庁のルールによる区分

国税庁の定める「減価償却資産の範囲と金額基準」は次の通りです:

区分金額基準処理方法
10万円未満固定資産に計上せず、全額経費処理可能消耗品費などで処理可
10万円以上20万円未満一括償却資産または少額減価償却資産に該当3年均等償却 or 即時償却
20万円以上30万円未満少額減価償却資産または通常の固定資産として耐用年数に応じて償却即時償却 or 定率法または定額法

つまり、10万円を超えると「即経費」にはできないのが原則です。

ただし、「中小企業者(資本金1億円以下など)」は特例があり、
この10万円~30万円未満の資産について柔軟に選択できます。


第2章 付随費用も固定資産に含める必要がある

● 付随費用とは?

固定資産を取得する際に、単純な「購入代金」だけでなく、
その資産を使える状態にするまでにかかった費用も含めて考えます。

例:パソコン購入の場合

  • 本体代金:180,000円
  • セットアップ費用:20,000円
  • 配送料:5,000円

→ 合計205,000円となり、固定資産の対象です。

つまり、10万円の壁は“合計金額”で判断するのがポイント。


● 経営者が見落としがちな付随費用

  • 建物取得時の登記費用・仲介手数料
  • 車両購入時のナビ・ETC・取付費
  • 機械設置費用や運搬費

これらは「使用開始までに要した費用」として、
資産に含めなければいけません。


第3章 10万円以上20万円未満の資産の3つの処理方法

中小企業者は、10万円〜20万円未満の資産を3通りの方法から選択できます。


① 【少額減価償却資産】(中小企業の特例)

  • 対象:1個あたり30万円未満
  • 処理:購入年度に全額損金計上(即時償却)

メリット:

  • 即時に経費化できる → 節税効果が高い
  • 手続きが簡単
  • 中小企業経営者の資金繰り改善に有効

デメリット:

  • 利益を圧縮しすぎると信用力が下がる(融資評価が下がる)
  • 翌期以降の経費が減る

資金繰りの視点:
即時償却により当期の税負担を減らし、キャッシュ流出を抑えることが可能。
ただし、黒字維持が必要な融資交渉期には使いすぎ注意。


② 【一括償却資産】

  • 対象:1個あたり20万円未満
  • 処理:取得価額を3年間で均等に償却

(例)15万円の備品を購入した場合
→ 3年間で1年あたり5万円ずつ経費化。

メリット:

  • 減価償却資産と同様に長期的な費用配分が可能
  • 利益のブレを抑えられる

デメリット:

  • 即時償却に比べると節税効果が分散する
  • 途中で廃棄しても残額を一括損金にできない

資金繰りの視点:
即効性はないが、安定した経営計画を立てやすく、
中期的な利益コントロールに向いています。


③ 【通常の固定資産として計上】

  • 対象:取得価額30万円以上、または任意選択で30万円未満でも可
  • 処理:耐用年数に基づいて減価償却

(例)耐用年数5年、取得価額18万円 → 年間償却3.6万円

メリット:

  • 利益調整がしやすい
  • 銀行からの評価が安定(黒字維持しやすい)
  • 長期的な資産価値の把握が可能

デメリット:

  • 当期の節税効果は低い
  • 会計処理がやや複雑

資金繰りの視点:
キャッシュは出ていないが、経費計上が分散されるため、
「実態利益」が見えやすくなり、金融機関評価が上がる。


第4章 3つの方法を比較してみよう

処理方法節税効果銀行評価資金繰りへの影響向いている会社
少額減価償却資産高い(即時)低い(利益圧縮)短期的に良い開業初期・赤字回避期
一括償却資産中程度(3年)安定中期安定利益を平準化したい企業
固定資産低い(分散)高い長期的に安定融資交渉期・成長企業

第5章 資金繰りを良くするための選択戦略

● 資金繰り重視なら「少額減価償却資産」

創業間もない時期や利益が不安定な会社は、
まずはキャッシュを残すことが最優先。

全額経費化できる“少額減価償却資産”を積極的に活用すべきです。


● 融資重視なら「固定資産計上」

銀行は、「利益が出ている会社」を好みます。
節税ばかりして利益が小さいと、
「返済原資がない会社」と見られ、融資が通りにくくなります。

黒字を維持したいときは、あえて資産計上して利益を確保しましょう。


● 利益の安定化を狙うなら「一括償却資産」

急な利益変動を避けたい場合、3年均等償却で平準化するのが得策です。
特に製造業や建設業など、年度によって売上の波が大きい業種に向いています。


第6章 実際の経営判断の事例

🔹 事例①:創業2年目のデザイン会社

ノートPCを3台購入(計45万円)。
→ 1台15万円なので、少額減価償却資産で即時経費化。

結果:

  • 利益が圧縮され、税負担を約10万円削減
  • キャッシュを次の広告投資に回せた

🔹 事例②:安定成長中の建設業

工具類を1セット18万円で購入。
固定資産計上して耐用年数5年で償却。

結果:

  • 黒字を維持し、銀行融資の信用度アップ
  • 翌期に大型案件の運転資金調達がスムーズに

🔹 事例③:利益の波がある飲食業

厨房機器(15万円)を一括償却資産として処理。
→ 利益を3年間均等に分散。

結果:

  • 税金のブレが減り、経営計画が安定
  • 融資審査もスムーズ

第7章 経営者が意識すべき「付随費用」の落とし穴

  • 配送料・設置費用を抜かして10万円未満にする“分割処理”は税務リスク大
  • 分けて請求しても、実態が一体資産なら合算対象
  • ソフトウェア導入時の「開発費・サポート料」も含めて判断が必要

税務署は、「機能一体性があるか」を見ています。
形式だけで金額を分けても否認される可能性が高いので要注意。


最後に:経営判断の軸は「税金」ではなく「キャッシュフロー」

固定資産の処理は、単なる会計処理ではありません。
それは「資金をどこに残すか」という経営判断そのものです。

節税ばかりを優先してキャッシュを残せなければ、
次の成長投資や融資のチャンスを逃してしまいます。

逆に、しっかり利益を見せて銀行評価を上げることで、
大きな設備投資や人材採用のチャンスが広がります。

私は、財務コンサルタントとして、
こうした“数字の選択”が経営に与える影響を、
資金繰りシミュレーションを通して見える化し、
経営者が自信を持って判断できるよう支援しています。

数字を「節税」ではなく「未来の戦略」として捉える。
それが、キャッシュフロー経営の第一歩です。


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