経理

個人事業主と法人契約の生命保険はどう違う?経費になるの?それとも所得控除になの?

〜性質・会計処理・税務処理・福利厚生費活用まで徹底解説〜


はじめに

経営者の多くが「事業のリスク管理」と「節税対策」を兼ねて生命保険に加入しています。
しかし、個人事業主の保険契約法人契約の保険では、性質・会計処理・税務処理が大きく異なるのをご存じでしょうか?

さらに、法人契約の生命保険は、社内規程を整えることで福利厚生費として経費計上が可能になり、個人契約ではできない節税メリットもあります。

この記事では、個人事業主と法人契約の生命保険の違い、会計・税務処理の基本、福利厚生費として経費にする方法、注意点まで詳しく解説します。


個人事業主の生命保険契約の特徴

性質

  • 契約者=個人事業主本人
  • 保険料=「事業主自身が支払う個人的支出」という扱い

会計処理・税務処理

  • 生命保険料は原則として事業経費にならない(事業主貸)
  • 控除できるのは「生命保険料控除」など個人所得税の控除枠のみ(年最大12万円程度)
  • 事業に不可欠なもの(例:従業員の福利厚生目的)でない限り、経費算入は不可

メリット・デメリット

  • メリット:所得税控除の対象になる
  • デメリット:経費にできる範囲が非常に限られる

法人契約の生命保険の特徴

性質

  • 契約者=法人
  • 保険料=会社が負担
  • 保険金受取人=法人または被保険者本人(役員・従業員)

会計処理・税務処理

法人契約の生命保険は、契約内容によって経費(損金)算入できる割合が異なります。

  • 定期保険(死亡保険金受取人=法人):保険料の全額または一部を損金算入できる
  • 養老保険(満期保険金受取人=法人):保険料の資産計上が必要
  • 福利厚生目的(従業員全員対象・社内規程あり):保険料全額を福利厚生費として損金算入可能

メリット・デメリット

  • メリット:契約内容次第で保険料の全額または一部を損金算入でき、法人税負担軽減
  • デメリット:契約条件を満たさないと経費にできず、逆に課税対象になる

個人契約と法人契約の違い(比較表)

項目個人事業主契約法人契約
契約者個人事業主本人法人
保険料の扱い原則経費不可、個人控除のみ契約内容により損金算入可能
受取人本人・家族法人または被保険者本人
節税効果所得控除程度法人税・所得税・住民税で節税効果大
福利厚生費扱い原則不可規程整備で可

福利厚生費として経費にするためのポイント

1. 社内規程を整える

  • 「福利厚生規程」「保険加入基準」を作成し、誰が対象か明記
  • 特定の役員だけを対象にすると「役員賞与」と認定されるリスク

2. 全従業員を対象にする

  • 従業員全員を対象にすれば、保険料全額を福利厚生費として損金算入可能

3. 受取人設定に注意

  • 受取人が法人=保険料は損金算入可能(契約内容による)
  • 受取人が役員個人=給与課税される可能性あり

実際の事例

事例1:個人事業主から法人成りで節税

Aさんは個人事業主時代に月5万円の生命保険料を自分名義で払っていた。
法人成り後、法人契約に変更し、全従業員対象の定期保険に加入。
保険料全額を福利厚生費として損金算入でき、法人税が軽減。

事例2:役員だけ対象にして損金否認

B社は社長だけを対象に法人契約の保険を加入。
社内規程なしで経費計上していたため、税務調査で「役員賞与」と認定され損金否認。

事例3:満期保険金の資産計上

C社は法人契約の養老保険に加入。
保険料を全額損金算入していたが、満期保険金受取人が法人だったため資産計上が必要と指摘され、修正申告。


経営者が押さえるべきポイント

  1. 個人事業主契約は基本的に経費不可、控除枠のみ
  2. 法人契約は契約内容・規程整備次第で保険料を損金算入可能
  3. 福利厚生費扱いには「全従業員対象」「社内規程整備」が必須
  4. 受取人設定・契約内容を間違えると課税リスクが高まる

まとめ

  • 個人事業主の生命保険は基本的に個人支出扱いで経費にできない
  • 法人契約の生命保険は、契約内容・受取人設定・社内規程によって損金算入可能
  • 福利厚生費として経費計上するには「全従業員対象」「社内規程整備」がカギ
  • 正しい契約と処理で法人税・所得税・住民税の負担を軽減できる

最後に

私はこれまで多くの経営者の保険契約の見直しや税務処理をサポートし、個人契約から法人契約に切り替えることで大きな節税効果を実現してきました。
しかし、正しい知識と社内整備がなければ、思わぬ税務リスクを抱えることになります。

経営者の皆さまには、生命保険を単なる「節税商品」ではなく、会社の福利厚生・財務戦略の一部として正しく活用していただきたいと思います。


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