年末調整と確定申告の違い|所得控除の対象・必要書類・原本要否を徹底解説!
年末調整でできる所得控除・できない所得控除
経営者が知っておくべき、控除の範囲・証明書の原本要否・ミスを防ぐ実務ポイント
はじめに:年末調整と確定申告の違いを理解しよう
年末が近づくと、「社員から医療費の領収書やふるさと納税の控除証明書を渡された」という経営者の方も多いのではないでしょうか。
しかし実は、医療費控除やふるさと納税(寄附金控除)は年末調整ではできません。
この誤解は非常に多く、毎年のように年末調整の現場で混乱が起こります。
なぜなら、「所得控除」という言葉は同じでも、手続きが年末調整と確定申告で分かれているからです。
本記事では、
- 年末調整でできる所得控除
- 確定申告でしかできない所得控除
- 書類の原本要否の一覧表
- よくある間違い事例(医療費・ふるさと納税)
をわかりやすくまとめ、経営者が自社の年末調整業務をスムーズに進められるように解説します。
第1章:そもそも「年末調整」と「確定申告」の関係とは?
● 年末調整は“簡易版の確定申告”
年末調整は、給与所得者の税金を会社が代理で調整する手続きです。
毎月源泉徴収していた所得税の合計と、1年間の正しい税額を比較し、過不足を調整します。
確定申告は、すべての所得(給与・事業・不動産・配当など)を合算して税額を確定する手続きです。
つまり、年末調整は「給与所得だけの人」のための簡易的な確定申告のようなもの。
そのため、給与以外の所得や一部の控除は対象外となります。
第2章:年末調整でできる所得控除一覧
以下は、年末調整で適用できる主な所得控除です。
それぞれの概要と必要書類、原本の要否を整理しました。
| 控除名 | 内容 | 必要書類 | 原本要否 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料控除 | 国民年金・厚生年金・健康保険などの支払分 | 国民年金保険料控除証明書(年金機構から送付) | 原本必要 |
| 生命保険料控除 | 生命保険・介護医療・個人年金保険の支払分 | 保険会社からの控除証明書 | 原本必要 |
| 地震保険料控除 | 地震保険・旧長期損害保険などの支払分 | 保険会社からの証明書 | 原本必要 |
| 配偶者控除・配偶者特別控除 | 配偶者の所得が一定以下の場合 | 保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書 | 原本不要 |
| 扶養控除 | 扶養家族(子・親など)がいる場合 | 扶養控除等申告書 | 原本不要 |
| 障害者控除 | 障害者手帳や特別児童扶養手当などがある場合 | 障害者手帳など | 原本写し可(提出不要の場合あり) |
| 寡婦(夫)控除・ひとり親控除 | 条件を満たす配偶者・子供の有無による控除 | 扶養控除等申告書に記載 | 原本不要 |
| 勤労学生控除 | 所得が一定以下の学生 | 学生証または在学証明書 | 原本不要(写し可) |
| 小規模企業共済等掛金控除 | iDeCoや中小企業共済の掛金 | 掛金払込証明書 | 原本必要 |
| 住宅ローン控除(2年目以降) | 住宅借入金等特別控除の継続適用 | 控除申告書+年末残高証明書 | 原本必要 |
✅ ポイント
初年度の住宅ローン控除は年末調整ではなく確定申告で行います。
2年目以降は、年末調整で会社に提出することで適用可能です。
第3章:確定申告でしかできない所得控除一覧
年末調整では対応できず、本人が確定申告を行う必要がある所得控除は以下のとおりです。
| 控除名 | 内容 | 提出書類 | 年末調整でできない理由 |
|---|---|---|---|
| 医療費控除 | 自分や家族の医療費が年間10万円(所得200万円未満なら5%)を超えた場合 | 領収書、医療費控除の明細書 | 医療費の確定額を本人しか集計できないため |
| 寄附金控除(ふるさと納税含む) | 自治体・学校などへの寄附金 | 寄附金受領証明書 | 所得や寄附先により計算が異なるため |
| 雑損控除 | 災害・盗難・シロアリ被害などの損失 | 被害証明書など | 個別事情に基づくため |
| 住宅ローン控除(初年度) | 住宅を購入・新築した初年度 | 登記事項証明書・残高証明書 | 税務署が審査するため |
| 社会保険料控除(本人が別口で支払い) | 家族の分を本人が支払った場合など | 領収書・証明書 | 給与から控除されていないため |
| 雑所得・副業の経費控除 | 副業・投資・講演など | 収支内訳書 | 給与所得以外のため |
| 国民年金基金・iDeCoの未提出分 | 年末調整で出し忘れた証明書 | 証明書原本 | 年末調整締切後の提出不可のため |
💡 ふるさと納税は“確定申告”が基本
ただし、寄附先が5自治体以内で「ワンストップ特例制度」を申請していれば、確定申告は不要です。
しかし、6自治体以上に寄附した場合や、他の控除(医療費など)を申告する場合は、必ず確定申告が必要になります。
第4章:原本が必要な控除・不要な控除 一覧表まとめ
| 控除名 | 原本必要 | 理由 |
|---|---|---|
| 国民年金保険料控除 | 必要 | 日本年金機構発行の証明書が必要 |
| 生命保険料控除 | 必要 | 保険会社発行の証明書原本が必要 |
| 地震保険料控除 | 必要 | 保険会社発行の証明書原本が必要 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 必要 | 共済機構発行の証明書原本が必要 |
| 住宅ローン控除(2年目以降) | 必要 | 金融機関発行の残高証明書が必要 |
| 配偶者控除・扶養控除・障害者控除 | 不要 | 申告書に記載で完結(証明書は保管) |
| 勤労学生控除 | 原本不要(写しで可) | 在学証明書など |
| 医療費控除・寄附金控除 | × 年末調整不可 | 確定申告で申請 |
第5章:よくある誤り ― 医療費・ふるさと納税の勘違い
● 医療費控除は年末調整ではできない
社員から「医療費の領収書を提出します」と言われたら、確定申告で処理するものと伝える必要があります。
年末調整では、会社は従業員本人や家族の医療費を把握できないため、適用できません。
🔹 医療費控除の条件
- 年間10万円(所得200万円未満の場合は5%)を超える部分が控除対象
- 治療目的の費用のみ(美容整形・健康食品は対象外)
🔹 医療費控除の誤解
- 年末調整の書類と一緒に領収書を提出しても、税額は変わりません。
- 翌年2月16日〜3月15日の確定申告で申請する必要があります。
● ふるさと納税も、原則は確定申告で
「ふるさと納税したから年末調整で控除してほしい」と言われた場合も同様です。
年末調整では対応できません。
ただし、ワンストップ特例制度を使えば確定申告不要となります。
🔹 ワンストップ特例の条件
- 寄附先が5自治体以内
- 寄附のたびに申請書を提出している
- 確定申告をする必要がない人(会社員など)
6自治体以上に寄附した場合や、副業・医療費控除を行う場合は、
必ず確定申告が必要になります。
第6章:年末調整で控除漏れを防ぐための経営者チェックリスト
経営者として、年末調整の漏れを防ぐには以下を確認しましょう。
✅ 従業員向け案内
- 医療費控除・ふるさと納税は会社では処理できないことを明記
- 控除証明書の「原本」を提出してもらうよう指示
- 締切日を明確に伝える
✅ 経理担当者向け管理
- 控除証明書は年内(12月給与処理前)にすべて回収
- 提出書類のチェックリストを作成
- 書類の保管期間は原則7年間(税務調査対応のため)
✅ 税理士・社労士との連携
- 年末調整の実施タイミング(12月給与反映)を共有
- 翌年1月の「法定調書提出期限(1月31日)」を意識
- 源泉所得税の納付スケジュール(1月10日)も確認
第7章:電子化による年末調整の効率化
現在、年末調整は電子化が急速に進んでいます。
クラウド給与ソフトを導入すると、従業員がスマホで証明書を撮影・アップロードでき、経理側は自動計算。
おすすめのサービス:
- マネーフォワードクラウド給与
- freee人事労務
- 弥生給与
電子化によって、提出漏れ・記入ミス・控除漏れが激減し、経営者の確認負担も軽くなります。
最後に:年末調整は“社員の信頼を守る税務”
年末調整は単なる税務手続きではなく、社員との信頼を築く大切な経営業務です。
経営者が「どこまでが年末調整で、どこからが確定申告か」を理解しておくだけで、
- 社員への説明がスムーズになる
- 税務署からの指摘を防げる
- 会社の管理レベルが向上する
という大きな効果があります。
「税金を整えること」は、「信頼を整えること」。
年末調整の理解が、会社全体の信頼を支える基盤となります。
✏️ まとめ
- 年末調整は給与所得に限定。医療費控除・ふるさと納税は確定申告。
- 控除証明書の原本提出が必要なもの・不要なものを明確に区別。
- 経営者の理解と社員への周知で、ミスのない年末調整を。
芦屋市で税理士をしています、ながさん(長岡昭宏)です。1987年生まれ。兵庫県西宮市で生まれ育ち、現在、芦屋市に在住。未来会計や資金繰りやバックオフィスのDX化などのお困りごとを中心に、経営者の伴走支援をしています。懇切丁寧に明るく元気にサポートいたします。