経理

赤字脱却のカギは“粗利益”にあり|MQ会計で債務超過からキャッシュフロー改善へ

債務超過を改善するために経営者が考えるべきものは「粗利益」〜 MQ会計で会社を立て直す財務経営の新常識 〜


はじめに:債務超過は「倒産」ではない。だが、放置は危険。

「債務超過です。」

税理士からこの言葉を聞いて、頭が真っ白になる経営者は多いでしょう。
確かに、債務超過とは“会社の資産より負債が多い状態”であり、見た目には危険信号です。

しかし、実は債務超過の企業の多くが、本業の利益構造を理解せずに経営していることが原因です。
つまり、赤字の原因は「売上」ではなく、「粗利益(限界利益)」の構造にあります。

そして、この粗利益構造を明確に見える化して改善する手法が、
いま注目を集めるMQ会計(エムキュー会計)です。


第1章 債務超過の本質は「キャッシュの逆流」

● 債務超過とは「資金の逆回転」

債務超過とは、資産より負債が多い状態のことをいいます。
つまり、会社が稼ぐ力(資産)よりも借り入れなどの外部資金に依存しているということ。

この状態が続くと、

  • 新たな融資が受けにくくなる
  • 取引先の信用が下がる
  • 資金繰りが圧迫される

といった「負のスパイラル」に陥ります。


● 財務指標上の「黒字」でも債務超過は起こる

多くの経営者が誤解しているのは、
「黒字=安全」ではないということ。

黒字でも、

  • 粗利益が低い(値引き競争)
  • 固定費が高い(人件費・家賃・広告費)
  • 回収が遅い(売掛金が膨らむ)

といった状態では、キャッシュが会社から出ていくスピードの方が速くなる
その結果、債務超過に陥るケースが後を絶ちません。


第2章 債務超過のカギは「粗利益率」と「MQ会計」

● MQ会計とは?

MQ会計とは、M(粗利益=限界利益)とQ(販売数量)を掛け合わせて、
会社の収益構造を明確に“見える化”する会計のことです。

つまり、

MQ=限界利益 × 販売数量

で、会社がどのように儲けを生み出しているかを、
単なる「売上」ではなく「利益構造」で分析する考え方です。


● なぜ粗利益が重要なのか?

一般的な経営者の多くは「売上アップ」を目標に掲げます。
しかし、売上が増えても、値引きや原価上昇で粗利益が下がれば、
キャッシュは増えず、逆に債務超過が進行することになります。

会社を支えるのは売上ではなく、粗利益額(限界利益)です。
この“粗利益”が、すべての経営判断の基礎となります。


● 粗利益=売上 − 変動費

粗利益は、売上から変動費(仕入・外注・材料など)を引いたもの。
固定費(人件費や家賃など)を賄うための原資でもあり、
粗利益が減ると、いくら売上があっても利益は残りません。


第3章 MQ会計が明らかにする「儲けの構造」

● MQ会計の基本構造

指標内容経営判断に活かせるポイント
M(限界利益)売上-変動費利益を生み出す本当の力
Q(販売数量)商品・サービス提供数どの商材がキャッシュを生むか
MQ限界利益×数量事業全体の収益構造を見える化
F(固定費)経営を維持するコスト削減・最適化の対象
G(利益)MQ-F会社の真の収益力

この構造を使うと、
「どの商品を、どの価格で、どの数量売れば、利益がいくらになるか」
が数値で見えてきます。


● MQ会計が教えてくれる「粗利益改善の3つの道」

  1. 単価を上げる(値引きを減らす)
    → 売上は減っても、利益は増える。
  2. 原価を下げる(仕入れ交渉・外注コスト見直し)
    → 粗利益率を上げてキャッシュを増やす。
  3. 固定費を一定にして販売数量を増やす
    → 利益率が改善し、債務超過を抜け出す。

これらを数字で“見える化”できるのが、MQ会計の最大の強みです。


第4章 債務超過を改善するための3ステップ

ステップ①:現状を「MQ会計」で見える化する

まずは、以下のような表を作成します。

商品名売上高変動費限界利益(M)販売数量(Q)MQ(粗利益額)
A商品1,000,000600,000400,00010040,000,000
B商品500,000400,000100,000505,000,000

これにより、「どの商品が会社を支えているのか」が一目瞭然になります。


ステップ②:固定費の回収ライン(損益分岐点)を確認する

損益分岐点比率=固定費 ÷ 限界利益

この比率が高いほど、債務超過の危険度が高まります。
例えば、限界利益が年間3,000万円、固定費が2,700万円なら、
損益分岐点比率は90%。
つまり、売上が少しでも落ちた瞬間に赤字転落です。


ステップ③:キャッシュフローを意識した利益設計へ

粗利益を増やすことは、キャッシュを生む体質に変えることと同義です。

・黒字なのに資金がない
・売上が伸びても手元資金が減る

こうした「利益とキャッシュのズレ」は、
固定費の増加や変動費率の悪化が原因です。

MQ会計で利益構造を理解することで、
“キャッシュが貯まる経営”にシフトできます。


第5章 MQ会計で債務超過を抜け出した実例

● 建設業A社:材料費削減で粗利率を+8%改善

MQ分析を実施し、主要現場ごとの限界利益を算出。
利益率が低い現場の材料費・外注費を徹底分析した結果、
年間粗利益が800万円増加。債務超過を2年で解消。


● 製造業B社:単価見直しで黒字転換

取引先別MQ分析を行ったところ、利益が出ていない低単価取引が全体の30%を占めていた。
単価交渉と販路整理を実施し、営業利益率を2%→6%に改善。


● サービス業C社:固定費を見える化し利益計画を再構築

従業員の稼働率をもとに「1人当たり粗利益」を算出。
生産性を可視化したことで、非効率な業務を外注化し、
年間で固定費を600万円削減。キャッシュフローが大幅改善。


第6章 MQ会計を導入すると経営者が変わる

● 数字が「攻めの武器」になる

従来の会計は、「過去の数字」をまとめるものでした。
しかし、MQ会計は「未来を設計するための数字」。

  • どの商材を伸ばすか
  • どの顧客層に注力するか
  • どの価格で利益を最大化できるか

これらを数字で語れるようになると、
経営者の意思決定が驚くほど速くなります。


● 銀行・取引先からの信頼が上がる

MQ会計を導入すると、財務数値に裏付けのある経営方針を提示できます。
「粗利率を2%改善し、年間キャッシュフローを+500万円にする」
という説明ができる経営者は、金融機関からの評価が格段に上がるのです。


第7章 債務超過改善の本質は「数字に強い経営者になること」

債務超過を抜け出すための最初の一歩は、
「売上」ではなく「粗利益」に目を向けること。

そして、粗利益を“見える化”し、戦略的に改善していくには、
MQ会計という経営の物差しが欠かせません。

数字を理解すれば、経営はもっとシンプルになります。
なぜなら、会社の利益は数式で説明できるからです。

利益(G)=(単価−変動費)×販売数量−固定費

この構造を経営者が理解し、日々の意思決定に活かす。
それこそが、債務超過から抜け出す「唯一の道」なのです。


最後に:数字を「未来に生かす」経営を

債務超過は、過去の結果であって未来の限界ではありません。
重要なのは、「何をどれだけ改善すれば、会社が黒字に戻るのか」を
数字で把握し、行動に移すことです。

MQ会計は、その“行動の羅針盤”となります。

私は財務コンサルタントとして、
単なる会計処理ではなく、
数字を経営戦略に変えるお手伝いをしています。

粗利益を軸にしたキャッシュフロー経営を実践し、
“債務超過を抜け出す”だけでなく、
“未来への投資ができる会社”へと進化させましょう。

ホームに戻る