従業員

大学生の国民年金免除と親の所得控除 ─ 経営者が従業員に伝えることで離職防止につながる理由

はじめに

日本に住む20歳以上のすべての人には、国民年金への加入義務があります。これは大学生であっても同じです。しかし、大学生の多くはまだ十分な収入を得ていないため、保険料の納付が難しいケースも少なくありません。そこで用意されているのが「学生納付特例制度(学生免除制度)」です。

一方で、親が代わりに子どもの国民年金を支払うことにより、「社会保険料控除」を利用して親の所得税や住民税を節税できる可能性もあります。

この記事では、

  • 学生納付特例制度の仕組み
  • 親が代わりに払った場合の税務上の扱い
  • どちらを選択するのが合理的か
  • 経営者が従業員に情報提供する意義

をわかりやすく解説し、経営改善や従業員の定着率アップにつながるヒントをお伝えします。


学生納付特例制度とは?

学生納付特例制度は、大学生や専門学校生など、一定の基準を満たす学生であれば、本人の所得が基準以下の場合に国民年金保険料の納付を猶予できる制度です。

制度の概要

  • 対象:大学・大学院・短大・高専・専修学校などの学生
  • 所得基準:本人の所得が一定額以下(例:令和6年度は118万円+扶養親族等の人数に応じた加算額)
  • 猶予期間:1年ごとに申請が必要
  • 猶予中:将来の年金額には反映されない
  • 追納制度:10年以内であれば後から納付可能(ただし、経過年数により加算金が発生する場合あり)

メリット

  • 現在の生活負担を軽減できる
  • 学業専念を優先できる

デメリット

  • 猶予期間中は年金受給資格期間に算入されるが、将来の年金額には反映されない
  • 追納をしなければ年金額が減少する

親が代わりに払った場合の扱い

では、学生本人に代わって親が国民年金を払った場合、税務上どうなるのでしょうか?

ポイントは「社会保険料控除」

  • 国民年金は、実際に負担した人が「社会保険料控除」を受けられる
  • 子ども名義の保険料であっても、親が実際に払ったなら、の所得から控除できる

親が払うメリット

  • 親の所得から社会保険料控除が受けられる
  • 例えば年収600万円程度の会社員なら、1年分(約20万円)の国民年金を払うと、所得税・住民税で約4万円程度の節税になる

注意点

  • 「子どもの銀行口座から自動引き落とし」だと親が払ったことにならない
  • 親が自分の口座や現金で負担したと証明できることが必要

どちらを選ぶのが合理的か?

学生免除を選ぶ場合

  • 学生本人の収入がほとんどなく、将来追納できる見込みがある
  • 今は支払えないけれど、就職後に追納したい

親が払う場合

  • 親の所得が一定以上あり、社会保険料控除の節税メリットが大きい
  • 将来の年金減額リスクを避けたい

ケーススタディ

仮に大学生のAさん(収入ゼロ)とその親(年収600万円)がいるとします。

  • 学生免除を選んだ場合:今は払わずに済むが、将来の年金額が減る。追納をしなければ終わり。
  • 親が払った場合:20万円支払って、親が4万円程度節税できる。将来の年金額も満額確保できる。

この場合、親が払ったほうが世帯全体で得策と言えるでしょう。


経営者が従業員に伝えるべき理由

経営者にとって、「従業員が家庭の税金や社会保険の仕組みを理解しているかどうか」は、一見すると会社経営に直接関係がないように思えます。しかし、実は大きな意味があります。

1. 従業員の生活安定 = 離職率低下

  • 従業員が知らずに損をしていると、不満や不安が生まれる
  • 経営者から正しい知識をアナウンスすることで、「従業員思いの会社」という信頼感につながる

2. 福利厚生としての情報提供

  • 法定福利厚生だけでなく、こうした税制・社会保険の知識を提供することも「福利厚生」の一環
  • 小さな取り組みでも、従業員の評価は大きく変わる

3. 経営者の姿勢が会社の文化を作る

  • お金に強い会社は、経営者が数字や制度に敏感
  • 経営者がこうしたことを積極的に伝える姿勢そのものが「安心して働ける環境」を作る

まとめ

  • 大学生でも国民年金への加入は必須
  • 学生納付特例制度を利用すれば、納付を猶予できるが、将来の年金額は減少する可能性あり
  • 親が代わりに払うことで、親の所得控除として節税可能。世帯単位で考えればメリット大
  • 経営者が従業員にこうした知識を伝えることで、生活の安心感が生まれ、離職率の低下につながる

最後に

経営者の役割は、単に給料を払うことだけではありません。従業員が将来に安心して働ける環境を整え、家族を含めた生活基盤を守るサポートを行うことも大切です。

税制や社会保険制度を正しく伝えることは、従業員の信頼を得る近道であり、結果として会社の安定経営や成長につながります。

私は、こうした「数字と制度を味方につける経営支援」を専門とし、企業の未来を一緒にデザインするお手伝いをしています。節税・資金繰り・人材定着といった課題をトータルでサポートし、安心できる経営基盤を築いていただけるよう伴走していきます。

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