融資

中小企業経営者必見!融資時にセットで勧められる投資・保険の正しい断り方

融資担当者の鵜呑みになっていませんか?
〜 定期預金・投資信託・保険を勧められたときに経営者が取るべき判断 〜


はじめに:融資の「裏」にある営業ノルマという現実

「今回の融資をスムーズに通すために、定期預金を少し組んでいただけませんか?」
「この投資信託を一緒に契約してもらえれば、金利も少し優遇できます。」

――こういったセリフを、一度は聞いたことがある経営者も多いのではないでしょうか。

実は、これらの提案は“融資担当者の営業トーク”の一部であり、
融資そのものの審査には、ほとんど関係がない場合が大半です。

この記事では、

  • 銀行担当者がなぜこのような提案をするのか
  • 契約しても融資額が変わらない理由
  • 経営者が判断すべき基準
  • 断るときの上手な対応方法

これらを、金融の実態と経営判断の視点から詳しく解説します。


第1章 融資の“裏側”で行われている担当者の営業構造

● 銀行員の「KPI」は、融資だけではない

銀行員の評価は、融資額だけでは決まりません。
むしろ、近年の金融機関では
融資+非金利収益(手数料ビジネス)」が評価の中心です。

非金利収益とは、たとえば以下のような商品です:

  • 定期預金(預入額に応じた手数料)
  • 投資信託(販売手数料+信託報酬)
  • 生命保険(契約手数料)
  • 外貨預金(為替スプレッド)

つまり、融資担当者がこうした商品を“セット提案”するのは、
自分の営業目標を達成するためなのです。


● 担当者の「融資審査への影響力」は限定的

実際に融資を決裁するのは、
担当者ではなく審査部門稟議決裁ルートです。

したがって、担当者がいくら「契約してもらえれば通りやすくなります」と言っても、
その発言が審査結果を変えることはまずありません。

金融機関内部では、
「営業は営業、審査は審査」という明確な線引きがあります。


第2章 定期預金や投資信託をセット契約する意味はあるのか?

● 定期預金:見せかけの“自己資本強化”

銀行が定期預金を勧める背景のひとつに、
「融資額の一部を戻入してもらう」ことで、
貸出金のリスクを下げる狙いがあります。

たとえば、
融資1,000万円に対して定期預金100万円を預けさせる。
→ 実質的には「900万円の貸付」と同じ意味になります。

経営者側から見ると、
資金調達しても一部を凍結されるだけの話であり、
資金繰り改善にはマイナスです。


● 投資信託:金融機関にとっては“利益率の高い商品”

投資信託の販売手数料は、
商品によっては3%以上あります。

そのため、融資担当者は“販売成績”として上層部に評価されますが、
経営者にとっては
「運用リスクを背負ってまで契約する理由」はほとんどありません。

融資を受ける目的が“資金繰り安定”であれば、
リスク資産を抱える行為は本末転倒です。


● 生命保険:法人契約は節税効果が薄れた

かつては、
「逓増定期保険」などを使って節税しながら資金繰りを調整できましたが、
2019年の税制改正で損金算入割合が厳格化されました。

いまでは、法人名義で加入しても、
節税効果はごくわずか。

それでも金融機関が勧めるのは、
「保険会社との提携ノルマ」があるからです。


第3章 契約しても融資額が変わらない理由

● 融資審査は「財務データ」がすべて

融資審査で重視されるのは、以下の3点です:

  1. 財務内容(自己資本比率、利益率、債務償還年数)
  2. 返済原資(キャッシュフロー)
  3. 経営者の信用・実績

つまり、
投資信託を契約したからといって、融資額が上がることはないのです。


● 銀行にとっての「セット販売」は単なる営業効率

融資審査を有利にするための条件ではなく、
担当者が営業成績を上げるための“ついで契約”です。

実際、金融庁も過去に
「融資条件に付随する投信・保険販売は不当」として指導を行っています。


第4章 経営者が取るべき正しい判断基準

● ① 融資目的を明確にする

「何のために借りるのか?」
ここを明確にすれば、不要な契約を回避できます。

たとえば、

  • 設備投資資金 → リースや助成金との比較
  • 運転資金 → 回転期間とキャッシュフロー
  • 借り換え → 利息削減と返済負担のバランス

この目的に“投資信託”や“保険”が必要か?
と自問すれば、自ずと答えは出ます。


● ② 担当者の言葉を「文書化」する

「契約すれば融資が通りやすい」と言われたら、
必ずメールなどで文書に残しておくこと。

金融庁の監督指針では、
「誤解を招く営業行為」は禁止されています。
文書があれば、後からトラブルを防ぐ証拠になります。


● ③ 担当者ではなく“上席”に相談する

担当者は営業ノルマを意識するため、
どうしても「契約を取る方向」で話を進めがちです。

一方で、
支店長や融資課長クラスに相談すれば、
より客観的な判断が得られることがあります。


第5章 断るときの上手な伝え方

  1. 感謝を伝える:「ご提案ありがとうございます」
  2. 理由を添える:「今回は資金繰り優先で…」
  3. 選択肢を残す:「将来的に余裕があれば検討します」

この3ステップで断れば、関係を悪化させることはありません。

銀行担当者は「関係を切られた」と感じると態度を変えますが、
「タイミングの問題」と伝えれば、円満に回避できます。


第6章 経営者がやるべき“融資後の行動”

● 融資後の定期面談を“戦略的”に使う

融資後の定期訪問では、
「次の提案(投信・保険)」が出やすいタイミングです。

ここで重要なのは、
経営計画や資金繰りの話を主導すること。

たとえば、

「今後は教育費に充てるため、社内留保を優先したい」
「固定費削減の方針なので、流動資産の流出は避けたい」

と伝えることで、提案を受け流すことができます。


● 「融資を受けること」と「信頼を得ること」は別

銀行との関係性を保つには、
契約よりも「情報開示」と「定期的な報告」が効果的です。

決算報告書を毎期提出し、
キャッシュフロー計画を見せることで、
「この会社はしっかりしている」と評価されます。

それだけで、
融資は自然と通りやすくなります。


最後に:銀行を“使いこなす”経営者へ

融資担当者は敵ではありません。
しかし、彼らの提案を鵜呑みにするのは危険です。

なぜなら、彼らは「あなたの利益」ではなく、
「自分の営業目標」を優先する場合があるからです。

経営者に求められるのは、
“提案を受け入れるか否か”の判断力。

私はこれまで、数多くの中小企業の資金調達を支援してきましたが、
自社の資金目的を明確にし、必要な資金だけを調達する会社ほど強いです。

融資は、会社の未来を創る大切な手段。
だからこそ、無駄な契約や提案に振り回されず、
自社に最適な資金戦略を描いていきましょう。

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