コラム

【知らなかったじゃ済まない】「年収の壁」160万円へ──給与明細の裏に潜む“税金の罠”とは?

「ちょっとだけ働きたい」の落とし穴

こんにちは!税理士の長岡です。今回は、「年収の壁」160万円へについてご説明いたします。
「子どもが大きくなってきたから、少しパートに出てみようと思って…」

そう話すのは、40代主婦のYさん。家計の足しにと、週3日の短時間勤務を始めたが、ふとしたきっかけで耳にした言葉にハッとする。

「それ、年収の壁超えると損するかもしれませんよ?」

この「年収の壁」、最近になって再び注目されています。2025年度(令和7年分)の税制改正で、“壁”の構造が大きく変わるからです。


「年収の壁」が160万円に!何が変わるの?

これまで注目されていた「103万円の壁」「130万円の壁」に続いて、今回新たに注目を集めているのが「160万円の壁」です。

2025年度(令和7年分)から、給与所得控除の最低保障額が10万円引き上げられ、65万円に変更されることになりました。これは年収ベースでいうと、およそ190万円以下の人が対象になります。

給与所得控除の最低保障額:

  • 改正前:55万円(年収162.5万円以下)
  • 改正後:65万円(年収190万円以下)

つまり、パートやアルバイトなどで年収160万円程度の人が“得する”ゾーンになるのです。


所得控除が細かく変わる=計算がめちゃくちゃ複雑になる

この改正によって、所得税の基礎控除も「一律」ではなくなりました。

例えば、基礎控除は合計所得が2,400万円を超えると段階的に減少し、2,500万円を超えるとゼロになります。さらに、今回の改正では、所得655万円以下の人に対して、最大7万円の加算がある「特例基礎控除」も登場。

合計所得金額通常の基礎控除額特例加算額合計控除額
~240万円58万円+7万円65万円
~360万円58万円+5万円63万円
~555万円58万円+2万円60万円
~655万円58万円+1万円59万円
655万円超58万円なし58万円

これが、**たった2年間限定(令和7年・8年分)**で適用される、いわば“ボーナスタイム”です。


年末調整は“プロでもミスしやすい”ほど複雑に

多くの人は「年末調整って会社がやってくれるんでしょ?」と思っているかもしれません。

でも、この特例控除の登場で、年末調整の正確な年収・所得の把握が不可欠になります。

たとえば──

  • 副業をしている
  • 家族が扶養内で働いている
  • 途中で転職して収入が分散している

こんな人は、所得の把握がとても難しくなります。企業の経理担当者にとっても、税理士にとっても、「ミスが許されない地雷ゾーン」が広がったのです。


配偶者控除・扶養控除にも影響が

給与所得控除が引き上げられたということは、合計所得金額の計算が変わる=配偶者控除や扶養控除の対象かどうかも変わるということ。

「うちの妻、ギリギリで扶養に入ってるはずだけど…大丈夫?」

そんな声が増えるのも当然です。ここで油断すると、

「扶養に入れると思っていたのに外れてしまった」
「配偶者控除が受けられなくなってしまった」

そんな“税金の落とし穴”にはまってしまうかもしれません。


「わたし関係ない」って思ってませんか?

こうした制度変更を「自分には関係ない」と思っていませんか?

でも実際には…

  • パートやアルバイトをしている人
  • 配偶者の収入に影響する人
  • 子どもがいて扶養控除を受けている人
  • 副業をしている人
  • 2ヶ所以上から給与をもらっている人

この中のひとつでも当てはまるなら、今回の改正は「あなたの話」です。


知っていれば防げた“損失”を、あなたは防げますか?

制度は「知っている人」が得をします。逆に、「知らなかった人」は、気づかぬうちに損をします。

だからこそ、今回の税制改正について、

  • 自分に影響があるのか?
  • どんな対策が必要なのか?
  • いつ、誰に相談すればいいのか?

こうした視点で、「今」から動くことが、後悔しないお金の守り方につながります。


【まとめ】わたしたちが今できる“3つの行動”

  1. 年収見込みを早めに把握する
     給与明細や副業収入を確認して、年末に慌てないように。
  2. 配偶者・家族と“扶養ライン”を話し合う
     お互いの年収を前提に、控除が受けられる範囲をチェック。
  3. 専門家に相談する
     今回の改正は複雑です。税理士やファイナンシャルプランナーといった専門家に相談して、「知らなかった損」を防ぎましょう。

最後に──この複雑さは、あなたのせいじゃない。

制度が複雑になるのは、いつもわたしたち生活者には不利益です。でも、それに振り回されるのではなく、「知ること」「動くこと」で、守れるお金がある。

あなたの給与明細の裏には、静かに“税金のドラマ”が潜んでいます。今回は、それに気づくきっかけにしてください。

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